矯正治療が終わる頃、保定装置についての説明を受けます。そのとき選択肢に挙がるもののひとつが、歯の裏側にワイヤーを接着するフィックスリテーナーです。
この装置について調べると、メリットに「つけ忘れがない」、デメリットに「清掃しにくい」と書かれています。ただし、この2つがどう関係しているのかまでは説明されていないことが多く、装置の性格がつかみにくくなっています。
先に整理しておくと、この装置では管理がなくなるのではなく、管理の種類が変わります。取り外し式では「装着する」ことが自分の役割ですが、固定式では「外れていないかを確認する」ことが役割になります。そして一部が外れても、気づきにくいという性質があります。
歯の裏側に接着して固定する装置
ワイヤーを接着する
フィックスリテーナーは、歯の裏側に細いワイヤーを当て、ボンディング剤という接着材で固定する装置です。歯の表面に直接付くため、装置としては小さなものになります。
取り外しはできない
名前のとおり固定式であり、自分で外すことはできません。装着するかどうかという判断が発生しない、というのがこの装置の基本的な性格です。
外からはほとんど見えない
裏側に付くため、話したり笑ったりしても見えることはほとんどありません。この点を理由に選ばれることもあります。
装着期間は症例による
使用する期間は状態や方針によって変わりますが、平均で2年から数年とされています。保定の期間や装着時間の考え方については、以下の記事にまとめています。
固定するのは犬歯間の6本
ここが、装置の性格を理解するうえで最初の要点になります。
左右の犬歯の間に接着するタイプが多い
フィックスリテーナーは、左右の犬歯の間、合計6本の歯に接着する形が一般的とされています。中切歯が2本、側切歯が2本、犬歯が2本という並びです。
小臼歯・大臼歯には接着されない
つまり、小臼歯や大臼歯には接着されません。これらの歯は、この装置による固定の対象外になります。
単独では歯列全体の保定にならない
接着されていない歯は、この装置では位置を保たれません。そのため、フィックスリテーナーだけで歯列全体の保定が成立するわけではないということになります。
併用されるのは、この範囲の違いによる
成人の矯正治療後には、フィックスリテーナーに加えて取り外し式のリテーナーを併用することが通常とされています。
「なぜ2つも必要なのか」と感じるかもしれませんが、固定式が受け持つ範囲が前歯に限られているためです。奥歯を含めた全体は、取り外し式が受け持ちます。
上下どちらに使うかは症例による
上の前歯だけに使う場合も、上下の両方に使う場合もあります。歯並びの状態や、どこが動きやすいかによって決まります。
つけ忘れが起こらない代わりに
次に、この装置の「便利さ」がどこから来ているのかを見ます。
取り外し式では、装着するかどうかが自分の判断になる
取り外し式のリテーナーは、毎日つけるかどうかを自分で決めることになります。指示された時間を守れるかどうかが、そのまま結果に関わります。
そしてつけ忘れた場合、本人はそれを知っています。
固定式では、その判断が発生しない
一方、固定式では装置が常に付いています。つけ忘れという事態そのものが起こりません。これが「つけ忘れがない」という説明の中身です。
一方で、確認するという作業が生まれる
しかし装置は物である以上、外れたり、緩んだりすることがあります。取り外し式であれば手に取って確認できますが、固定式ではそれができません。
外れていないかを確認する必要が、新たに生まれます。
管理がなくなるのではなく、種類が変わる
まとめると、この装置では管理が消えるわけではありません。「装着する」という管理が「点検する」という管理に置き換わっています。
点検は自分では難しい
そして問題は、この点検を自分で行うのが難しいという点です。装置は歯の裏側にあり、鏡で見ても確認しにくい位置にあります。
一部が外れても気づきにくい
前節の続きとして、もう少し具体的に見ておきます。
端が接着されていれば、装置は残る
フィックスリテーナーは複数の歯にまたがって接着されています。そのため、1か所の接着が外れても、他の場所が付いていれば装置は口の中に残ります。
落ちてこないため、外れたことが表に出ません。
見た目も感覚もほとんど変わらない
装置が残っている以上、鏡で見ても違いが分かりにくく、舌で触れても違和感が出ないことがあります。
このため、外れていることに気づかないまま過ごすということが起こりえます。
気づかない期間は、その歯が固定されていない期間になる
そして接着が外れた歯は、その時点から固定されていない状態になります。気づかずに過ごした期間は、そのままその歯が動きうる期間ということになります。
自分で見えない装置だからこそ
⚠️ これは「危険だから急いで確認を」という話ではありません。自分では確認しにくい装置だからこそ、定期的に見てもらう機会に意味があるということです。
保定の期間中に受診の案内がある場合、このときに装置の状態も確認されます。
違和感があれば相談する
ざらつきを感じる、舌に引っかかる、ワイヤーが浮いているような感じがする。こうした変化があれば、次の受診を待たずに相談してよいものです。
リテーナーを使っていても歯が動くことがある理由については、以下の記事で扱っています。
装置の状態や保定の進み方について確認したい場合、当院では診察料・検査料が無料です。
清掃の手間は増える
もうひとつ、日常のなかで実際に効いてくる部分です。
ワイヤーが常にあるため、届きにくい場所ができる
歯ブラシで磨くとき、ワイヤーとその周囲は毛先が入りにくくなります。とくに接着材の縁の部分には汚れが残りやすくなります。
デンタルフロスが途中までしか通せない
歯と歯の間にフロスを通そうとしても、ワイヤーがあるため、途中で止まります。上から下へ通し抜けることができません。
これは固定式に特有の制約です。
下の前歯では歯石がつきやすい
下の前歯の裏側は、もともと歯石がつきやすい場所です。唾液の出口が近く、唾液に含まれる成分が沈着しやすいためです。
そこにワイヤーが加わると、清掃はさらに難しくなります。
道具を使う方法がある
フロスをワイヤーの下に通すための補助具(フロススレッダーなど)や、歯間ブラシを使う方法があります。どの方法が合うかは、装置の形や歯並びによって変わります。担当の歯科医師や歯科衛生士に確認してください。
自分では届かない部分がある
そのうえで、自分の清掃だけでは届かない部分は残ります。定期的に清掃を受ける機会があれば、その部分を扱ってもらえます。
取り外し式との違いは、優劣ではない
2つを比べると、次のようになります。
| 項目 | 取り外し式 | 固定式 |
|---|---|---|
| 装着の判断 | 自分で行う | 発生しない |
| つけ忘れ | 起こりうる | 起こらない |
| 外れ・破損 | 気づきやすい | 気づきにくい |
| 清掃 | 外して磨ける | 届きにくい場所ができる |
| 対象範囲 | 装置の設計による | 接着した歯のみ |
どちらにも自分の側の作業がある
表を見ると分かるとおり、片方が楽でもう片方が大変、という関係ではありません。作業の中身が違います。
取り外し式では装着、固定式では点検と清掃が、それぞれ自分の側に残ります。
併用されるのは、互いの届かない部分を補うため
前述のとおり、固定式は前歯の範囲を受け持ちます。取り外し式は全体を覆えます。組み合わせると、それぞれの弱い部分が補われます。
何を使うかは方針の一部として決まる
⚠️ どの装置を使うかは、歯並びの状態、どこが動きやすいか、生活の条件などから決まります。記事の情報だけで判断できるものではありません。
外れた・違和感があるときの動き方
気づくきっかけになる感覚
ざらつく、舌に引っかかる、ワイヤーが浮いている感じがする、片側だけ当たり方が違う。こうした変化は、装置の状態が変わったことのサインになりえます。
自分で外そうとしない
⚠️ 一部が外れている場合でも、自分で引っ張ったり切ったりしないでください。歯や歯ぐきを傷めたり、残っている接着部分に負担がかかったりする可能性があります。
早めに相談する
外れたまま時間が経つほど、その歯が固定されていない期間が長くなります。受診の予定が先であっても、連絡して確認してもらうことができます。
長い時間軸での変化について
保定を続けていても、年月とともに歯並びが変化することはあります。その変化が後戻りによるものか、別の要因によるものかについては、以下の記事で扱っています。
作り直しや確認をどこで受けるか
保定装置は、矯正治療を受けた医院で作られるのが一般的です。ただし、転居や医院の都合などで、別の場所で相談したい場合もあります。
当院ではリテーナーの作成に対応しています。種類や費用については、以下の記事にまとめています。
診察料・検査料は無料です。装置の状態を確認したうえで、必要な対応をご相談いただけます。
自由診療に関する注記
マウスピース型矯正装置による歯列矯正は自由診療(保険適用外)です。マウスピース矯正 Oh my teeth の標準的な費用はLiteプラン 150,000円(税込・平均約2ヶ月)、Basicプラン 330,000円(税込・平均約3ヶ月)、Proプラン 660,000円(税込・平均約6ヶ月)です。記載の期間は歯を動かす矯正期間であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。主なリスク・副作用として、歯の痛みや違和感、歯根吸収、歯ぐきの退縮に伴うブラックトライアングル(歯と歯の間の隙間)などが生じる場合があります。IPRを行う場合はエナメル質を削るため、知覚過敏が生じることがあります。重度の歯周病や顎関節症のある方、骨格性の不正咬合が強い方などは治療をお受けいただけない場合があります。なおLiteプランには安心保証制度・ワイヤー補償は付帯しません(Basic・Proプランのみ)。
よくある質問
Q. フィックスリテーナーだけで十分ですか。
A. 接着されている歯は固定されますが、それ以外の歯は対象外です。一般的には左右の犬歯の間の6本に接着されるため、奥歯を含めた全体を保つには取り外し式との併用が通常とされています。どうするかは治療した医院の方針によります。
Q. 外れたことに気づく方法はありますか。
A. ざらつきや舌への引っかかりが手がかりになります。ただし端が接着されたままだと変化が出ないこともあるため、定期的に見てもらう機会が確認の場になります。気になる感覚があれば、次の受診を待たずに相談してください。
Q. 虫歯になりやすくなりますか。
A. 清掃しにくい場所ができるため、汚れが残りやすくなります。フロスが途中までしか通せない、下の前歯では歯石がつきやすい、といった条件が加わります。道具を使う方法や、定期的な清掃を受けることで対応できる部分です。
Q. いつまで付けておくものですか。
A. 症例と方針によって変わります。平均で2年から数年とされていますが、状態によってはより長く続けることもあります。保定の期間の考え方については矯正後に使うリテーナーとは?期間や装着時間を解説にまとめています。
まとめ
フィックスリテーナーについて、整理すると次のようになります。
- 歯の裏側にワイヤーを接着する固定式の保定装置。取り外しはできず、外からはほとんど見えない
- 🔴 固定されるのは接着された歯だけ — 一般には左右の犬歯の間の6本。奥歯は含まれない
- 🔴 だから単独では歯列全体の保定にならず、取り外し式との併用が通常とされる
- 🔴 つけ忘れは起こらないが、外れても気づきにくい — 端が接着されていれば装置は残り、見た目も感覚も変わらない
- 🔴 気づかない期間は、その歯が固定されていない期間になる
- 管理がなくなるのではなく、「装着」から「点検」に種類が変わる
- 清掃の手間は増える — フロスが途中までしか通せず、下の前歯は歯石がつきやすい
取り外し式と比べて優れているという装置ではありません。受け持つ範囲と、自分の側に残る作業の中身が違います。
出典
- 【実例あり】固定式フィックスリテーナー(まきの歯列矯正クリニック)
- フィックスリテーナーとは?メリット・デメリットや矯正治療後の利用期間・ケア方法(矯正歯科ピュアリオ)
- 歯の裏側にワイヤーを装着するリテーナーのメリット&デメリット(矯正歯科ネット)

