矯正を終えて10年ほど。ふと鏡を見て、下の前歯が少し重なってきたことに気づく。当時の写真と見比べると、たしかに違う。
このとき多くの方が最初に思うのは「リテーナーをやめたからだ」ということです。実際、そう書かれている記事も多くあります。
ただ、10年という時間の中で起きている変化には、性質の異なる2つのものが混ざっています。ひとつは矯正治療からの後戻り。もうひとつは、加齢にともなう歯列の変化です。後者は矯正をしたかどうかにかかわらず起こります。
この2つは原因が違うため、対処の考え方も変わります。この記事では、まず何が起きているのかを切り分けたうえで、今から取れる選択肢を整理します。
10年という時点で起きていること
最初に、時間軸の話をします。
典型的な後戻りは治療後2年以内に多い
矯正治療の後戻りは、動かした歯が元の位置に戻ろうとする現象です。そしてこれは、治療が終わってから2年以内に起こることが多いとされています。歯を支えている組織が新しい位置に落ち着くまでに時間がかかるためです。
10年時点の変化には別の要素が含まれる
そうすると、10年という時点で起きている変化を、すべて狭義の後戻りとして説明するのは難しくなります。そこには別の要素が混ざっています。
加齢にともなう歯列の変化
年齢を重ねると、歯並びは少しずつ変化していきます。とくに下の前歯には重なりが生じやすいことが知られています。
重要なのは、この変化は矯正をしていない人にも起こるという点です。矯正の経験がまったくない方でも、20代の歯並びと40代の歯並びは同じではありません。つまりこれは治療の失敗ではなく、口の中で自然に進んでいる変化です。
2つは原因が違うので対処も変わる
| 変化の種類 | 起こりやすい時期 | 主な要因 |
|---|---|---|
| 後戻り | 治療後2年以内が多い | 動かした歯が元の位置に戻ろうとする力 |
| 加齢による変化 | 年単位で徐々に | 加齢にともなう顎や歯の位置の変化。矯正歴を問わない |
今の変化がどちらの要素をより多く含むのかによって、必要な対応は変わります。そして、そのすべてがリテーナーをやめたことによるとは限りません。
歯が動き続ける仕組み
なぜ歯は動き続けるのか、背景を見ておきます。
歯には生理的に動く性質がある
歯は骨に固定されているわけではなく、歯根膜という組織を介して支えられています。この構造のおかげで噛む力を受け止められる一方、力が加われば少しずつ動くという性質も持っています。
元の位置の記憶
歯根膜には、元あった歯の位置の記憶が残っているとされています。矯正で動かした後も、この記憶が働くことで元へ戻ろうとする力が生じます。
リスクがゼロになることはない
こうした性質があるため、保定期間が終わったあとも、10年20年と経過しても、歯が動くリスクがゼロになることはないとされています。
ただし「ゼロにならない」と「対策が無意味」は違う
これは悲観的な事実に見えるかもしれませんが、そうではありません。リスクがゼロにならないことと、対策に意味がないことは別です。動く速さや程度は、条件によって変わります。後述するとおり、続けられる対策はあります。
10年時点で歯が動く4つの要因
具体的な要因を挙げます。
保定を続けているかどうか
リテーナーの使用状況は要因のひとつです。ただしこれは本記事の主題ではないため、詳しくはリテーナーしてるのに後戻りすることはある?理由と対処法を紹介にまとめています。装着していても動くことがある、という点も含めて扱っています。
加齢にともなう変化
前述のとおり、年齢とともに歯並びは変化します。顎の骨や歯ぐきの状態も年単位で変わっていきます。これは意志や努力でとどめられる性質のものではありません。
親知らずの影響
親知らずが前方に向かって生えようとしている場合、隣の歯を押す力が働くことがあります。20代以降に生えてくることもあり、矯正の後になって影響が出る場合もあります。
日常の習慣
歯ぎしりや食いしばり、口呼吸、舌で前歯を押す癖。こうした習慣は、日々わずかな力を歯にかけ続けます。一回あたりは小さくても、年単位で積み重なると位置に影響することがあります。
自覚がない場合も多く、歯科で指摘されて初めて気づくこともあります。
長期の安定について報告されていること
数値の話にも触れておきます。
10年後・20年後の報告
矯正治療の長期経過について、治療から10年の時点で満足できる歯並びを保てているのは30〜50%程度、20年後では10%程度という報告があります。
この数値をどう受け取るか
一見すると厳しい数字ですが、読み取り方が大切です。これは多くの人に何らかの変化が起きているということを示しています。
つまり、10年経って歯並びが変わったことは、自分だけに起きた特別な失敗ではありません。リテーナーを続けていた人にも、変化はある程度生じます。
変化イコール再治療ではない
もうひとつ押さえておきたいのは、変化の程度には幅があるということです。写真と見比べて気づく程度の変化と、日常生活に影響が出る変化とでは、意味が違います。
変化があること自体は、すぐに何かをしなければならないということを意味しません。まずは今どの程度なのかを把握することが出発点になります。
今の歯並びがどの程度変化しているかは、診てもらえば分かります。診察料・検査料が無料であれば、費用をかけずに確認できます。
今から取れる選択肢
程度に応じて、いくつかの選択肢があります。
| 選択肢 | 向いている状況 | 確認すること |
|---|---|---|
| 経過を見る | 変化が小さく、日常に支障がない | どのくらいの速さで動いているか |
| 保定装置を作り直す | 変化を今の位置で止めたい | 現在の歯並びに合わせて作れるか |
| 部分的に整え直す | 動いた範囲が限られている | 対応できる範囲かどうか |
| 全体をやり直す | 変化が大きい | 期間と費用 |
経過を見るという選択
変化が小さい場合、まず記録して様子を見るという判断もあります。写真を残しておけば、半年後や1年後との比較ができます。動いているのか、止まっているのかが分かることには意味があります。
記録の取り方
経過を見ると決めた場合、記録の残し方に少し工夫があると比較しやすくなります。
撮る角度と条件をそろえることが要点です。正面から口を軽く開けて上下の前歯が見える状態、そして下の歯だけを上から見た状態。この2枚を、同じ明るさの場所で撮っておきます。スマートフォンの写真であれば日付が残るため、記録としてはそれで足ります。
間隔は3〜6ヶ月に一度で十分です。毎日見ていると変化に気づけませんが、半年前の写真と並べれば違いが分かります。動いているのか、それとも今の位置で落ち着いているのか。この判断ができると、次にどうするかも決めやすくなります。
なお、この記録は相談に行くときにも役立ちます。現在の状態だけを見ても、そこで止まっているのか進行中なのかは分かりません。時間の経過が分かる写真があれば、判断の材料が増えます。
保定装置を作り直す
ここは実務的な点です。10年前に渡されたリテーナーが手元に残っている方は多くありません。そして残っていたとしても、今の歯並びには合いません。歯が動いた後なので、当時の型で作った装置は入らないか、無理に入れれば別の力がかかります。
したがって、保定を再開したい場合は今の歯並びに合わせて新しく作ることになります。リテーナーだけを作製することも可能です。詳しくは【大阪】関西でリテーナーを安く作るならここ!上下セット1.1万円で保定装置を注文にまとめています。
部分的に整え直す
動いた範囲が前歯の一部に限られている場合、治療範囲もその範囲にとどめられることがあります。全体を動かす場合と比べて、期間や費用の見通しが変わります。部分矯正が向いている歯並びは?向いてる症例や費用を紹介と部分矯正の値段を矯正方法別に比較で扱っています。
ただし、対応できるかどうかは動いた範囲と程度によります。
全体をやり直す
変化が大きい場合や、噛み合わせにも影響が及んでいる場合は、範囲を広げた治療になります。
どれになるかは診てから決まる
4つのうちどれが妥当かは、実際の状態を見なければ判断できません。軽い変化なのに全体をやり直す必要はありませんし、逆に範囲が広いのに部分的な対応で済ませれば、望んだ結果になりません。
再び動かないようにするために
対策として挙げられていることを整理します。
就寝時の装着を続ける
10年が経過した後も、就寝時のリテーナー装着を続けることが安定に寄与するとされています。日中は外していても、夜だけ着けるという運用であれば、生活への影響は小さく済みます。
保定装置そのものについては矯正後に使うリテーナーとは?期間や装着時間を解説にまとめています。
習慣への対応
歯ぎしりや食いしばりがある場合、その対応が歯並びの安定にも関わります。舌で前歯を押す癖なども同様です。まず自覚することが出発点になるため、歯科で指摘を受けたら覚えておくとよいでしょう。
定期的に診てもらう
年に1回でも状態を見てもらっていれば、変化に早く気づけます。虫歯や歯周病の確認とあわせて行えば、通院の手間も増えません。
完全に防げるわけではない
ただし、これらを続けたからといって変化がまったく起きないとは言えません。前述のとおり、歯には動く性質があり、加齢による変化もあります。目指すのは変化をゼロにすることではなく、程度を抑えることになります。
年齢と再治療の関係
年齢を理由に迷う方もいるため、触れておきます。
歯が動く仕組みは年齢で大きく変わらない
歯を動かす仕組みそのものは、成人であれば年齢による差はそれほど大きくありません。30代でも40代でも、矯正治療は行われています。
個人差はある
一方で、歯ぐきや骨の状態には個人差があります。歯周病がある場合は、そちらの治療が先になることもあります。
適応は検査で判断される
したがって「何歳だから」という基準で決まるものではなく、実際の状態によります。マウスピース矯正で対応が難しいケースについてはマウスピース矯正ができない6つの症例!対処法や治療方法もご紹介にまとめています。
当院で確認できること
マウスピース矯正 Oh my teeth では、診察料・検査料は無料です。現在の歯並びがどの程度変化しているか、どの選択肢が妥当かを検査のうえで確認できます。
治療が必要な場合、治療計画の段階では3Dシミュレーションで治療後の歯並びを確認できます。動いた範囲が限られていれば、治療範囲もそれに応じたものになります。歯を動かす期間は範囲によって変わり、後戻りを防ぐ保定期間は別に必要です。
自由診療に関する注記
マウスピース型矯正装置による歯列矯正は自由診療(保険適用外)です。マウスピース矯正 Oh my teeth の標準的な費用はLiteプラン 150,000円(税込・平均約2ヶ月)、Basicプラン 330,000円(税込・平均約3ヶ月)、Proプラン 660,000円(税込・平均約6ヶ月)です。記載の期間は歯を動かす矯正期間であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。主なリスク・副作用として、歯の痛みや違和感、歯根吸収、歯ぐきの退縮に伴うブラックトライアングル(歯と歯の間の隙間)などが生じる場合があります。IPRを行う場合はエナメル質を削るため、知覚過敏が生じることがあります。重度の歯周病や顎関節症のある方、骨格性の不正咬合が強い方などは治療をお受けいただけない場合があります。なおLiteプランには安心保証制度・ワイヤー補償は付帯しません(Basic・Proプランのみ)。
よくある質問
Q. 10年前のリテーナーはまだ使えますか?
歯が動いた後では、当時の型で作った装置は合わないことがほとんどです。入らない、あるいは一部だけが強く当たるという状態になります。無理に使うと歯に不適切な力がかかる場合があるため、保定を再開したい場合は今の歯並びに合わせて作り直すことになります。
Q. 矯正前の状態まで戻ってしまいますか?
そこまで戻ることは多くありません。動いた歯は元の位置に近づこうとしますが、治療前とまったく同じ状態に戻るというより、途中で落ち着くことが一般的です。ただし程度には個人差があるため、現状を確認しておくと見通しが立ちます。
Q. 軽い変化でも治したほうがいいですか?
必要とは限りません。日常生活に支障がなく、見た目も気にならない程度であれば、経過を見るという選択もあります。判断の材料になるのは、変化がまだ進んでいるのか止まっているのか、噛み合わせに影響が出ているかという点です。まず状態を把握してから決めるほうが、判断の精度が上がります。
Q. 再矯正の費用は最初のときと同じくらいかかりますか?
動いた範囲によります。前歯の一部にとどまる場合は、範囲を限定した治療で対応できることがあり、その場合は最初の治療より費用を抑えられる可能性があります。一方で全体に影響が及んでいる場合は、それに応じた治療になります。
まとめ
矯正から10年が経って歯並びが変わってきた場合、そこには性質の違う2つの変化が混ざっています。典型的な後戻りは治療後2年以内に起こることが多く、10年時点の変化には加齢にともなう歯列の変化が含まれます。後者は矯正をしたかどうかに関係なく起こるものです。
長期の経過については、10年後に満足できる状態を保てているのは30〜50%程度という報告があります。厳しい数字にも見えますが、裏を返せば多くの人に変化が起きているということでもあります。自分だけの失敗ではありません。
今から取れる選択肢は、経過を見る、保定装置を作り直す、部分的に整え直す、全体をやり直すの4つです。どれになるかは変化の程度によります。10年前の装置は今の歯並びには合わないため、保定を再開する場合も作り直すことになります。
まずは今どの程度なのかを確かめる。そこから選択肢が絞られます。
出典
- 【矯正治療後の後戻りの真実】患者さんに伝えるべき本当のこと(まきの歯列矯正クリニック)(10年後30〜50%・20年後10%の報告、後戻りの時期)
- 10年経っても歯は動く?矯正後の後戻りを防ぐための5つの習慣(アンチエイジングデンタルクリニック恵比寿)
- 矯正後10年で後戻りする原因と防ぐ方法・再矯正の費用を解説(ANDELT)
- 矯正後戻りは10年後も心配?歯が動き続ける原因と効果的な対策を歯科医が解説!(松岡歯科)

