親知らずについてよく聞くのは、「放っておくと前の歯を押して、歯並びが崩れる」という話です。矯正を始める前に抜いておいたほうがよい、という説明もよく見かけます。
ところがこの説には、研究による裏づけが十分にありません。
そして透明な装置を使う矯正では、親知らずが問題になるかどうかは別のところで決まります。歯を動かす計画のなかで、その場所が必要になるかどうかです。
この記事では、その仕組みを整理します。
「親知らずが押す」という説について
まず、よく言われている話から確認します。
系統的レビューが調べていること
親知らずと前歯の重なりの関係については、複数の系統的レビューが行われています。2023年に発表されたものでは、2022年12月までの文献を検索し、選択基準を満たした10編が検討されています。
一貫した関連は示されていない
その結論は次のようなものです。
- 大半の研究で、親知らずの存在と後戻りの間に統計的に有意な関連は報告されていない
- 咬合の安定を理由に親知らずを予防的に抜去することを支持する十分な根拠は得られなかった
別の系統的レビューでも、同じ方向の結論が示されています。
⚠️ ただし「抜かなくてよい」という意味ではありません
🔴 ここは正確に読む必要があります。
上記が言っているのは、「歯並びの安定を理由に、予防的に抜くこと」を支持する根拠が乏しいということです。
虫歯になっている、腫れを繰り返している、隣の歯に影響が出ているといった理由で抜歯が必要になることは、別の問題として存在します。
後戻りの原因については別の記事で
歯並びが年月を経て変わることについては、以下の記事で扱っています。
透明な装置での矯正で問題になること
では、何が関係するのか。ここが本題です。
歯を並べる場所を作る方法のひとつ
歯が並びきらないとき、場所を作る方法はいくつかあります。そのひとつが、奥歯を後ろへ動かすことです。
動かす先に場所が要る
奥歯を後ろへ動かすには、動く先に空間が必要です。
そこに親知らずがあると
🔴 親知らずがその位置にあれば、動かす余地がありません。
このため、奥歯を後ろへ動かす計画を取る場合、親知らずの抜歯が前提になることがあります。
押してくるからではなく、場所が要るから
つまり理由が違います。
「親知らずが前の歯を押すから抜く」のではなく、「動かしたい方向に親知らずがあるから抜く」ということです。
そして、その計画を取らないのであれば、この理由での抜歯は生じません。
方針しだいで結論が変わる
同じ状態の親知らずでも、どういう方針を取るかによって、抜くことになったりならなかったりします。
治療の内容が何によってどの順に決まるのかについては、以下の記事で整理しています。
当院では診察料・検査料が無料です。
装置が覆う範囲という論点
もうひとつ、透明な装置に固有の点があります。
装置は歯列を覆う形をしている
透明な装置は、歯列全体をかぶせるように覆う形をしています。この「覆う範囲」がどこまでかという問題があります。
親知らずまで含むとは限らない
装置の設計上、親知らずが覆われていない場合があります。
覆われていない歯は動かす対象ではない
🔴 装置に覆われていない歯には、力がかかりません。
つまりその歯は、計画のなかで動かす対象に入っていないということです。並びの一部として扱われていない、と言い換えることもできます。
途中まで出ている状態のとき
⚠️ 親知らずが途中まで生えている状態では、装置の縁がその部分に当たることがあります。
装着したときの当たり方は、生え方によって変わります。気になる場合は、確認していただく項目になります。
抜くかどうかは何を見て決まるか
判断に関わる要素を整理します。
⚠️ 以下は考慮される項目の整理であり、この記事で要否を判定することはできません。
生え方と向き
まっすぐ生えているか、傾いているか、埋まっているか。状態によって、処置の内容も変わります。
まわりの状態
腫れを繰り返しているか、虫歯があるか、隣の歯に影響が出ていないか。これらは矯正とは別に判断される項目です。
動かす方向に重なっていないか
🔴 そして本記事の論点である、動かす計画のなかでその位置が必要になるかどうか。
外からは向きが確認できない
埋まっている親知らずの向きや、神経との位置関係は、外からは確認できません。レントゲンやCTによる確認が必要になります。
金額の幅がどこから来るか
抜歯にかかる費用は、生え方と、抜く理由の2つによって変わります。この点は別の記事で詳しく扱っています。
抜いたあと、どこまで下がれるか
⚠️ ここは期待とずれやすい部分です。
空いた分だけ動くとは限らない
親知らずを抜いて後ろに空間ができたとしても、奥歯がその分だけ自由に動くわけではありません。
歯は骨のなかを動く
歯は骨に支えられており、動く範囲はその骨の形に制限されます。空間があるように見えても、骨の外へ出す動かし方はできません。
動かす量が足りない場合
そのため、後ろへ動かして作れる場所の量では足りないことがあります。その場合、別の方法が検討されることになります。
🔴 「親知らずを抜けば並ぶ」とは限らない、ということです。
どの方法を取るかは検査で決まる
足りる量なのかどうかは、測って初めて分かります。歯を並べるのに必要な長さと、使える長さを比べる作業が必要になります。
矯正で歯を抜くという判断そのものについては、以下の記事で扱っています。
進める順序について
時期の考え方にも触れておきます。
抜歯が先になる場合
動かす先の場所を空ける必要がある場合、その処置が先に行われます。
治りを待つ期間がある
抜歯したあとは、傷が落ち着くまでの期間が必要です。その間は動かす処置を進められないことがあります。
矯正のあとになる場合
一方、計画上その場所が不要であれば、矯正の期間中に抜く必要はありません。別の理由で抜歯が必要な場合も、時期は改めて判断されます。
先に決められない項目
どの順で進めるかは、方針が決まってから組み立てられます。先に決められるものではありません。
当院で行っていること、行っていないこと
🔴 先にお伝えしておくと、当院では親知らずの抜歯を行っておりません。抜歯が必要と判断された場合、一般歯科や口腔外科での処置をご案内することになります。
そのうえで、状態を確認するための検査は無料でお受けいただけます。口腔内をスキャンして状態を確認し、歯を動かした場合の歯並びを3Dのシミュレーションで見ていただけます。これは歯並びのシミュレーションであり、顔全体の変化を示すものではありません。
⚠️ また、当院の装置では対応できない動かし方があります。検査の結果として、別の方法が適しているとお伝えすることがあります。
自由診療に関する注記
マウスピース型矯正装置による歯列矯正は自由診療(保険適用外)です。マウスピース矯正 Oh my teeth の標準的な費用はLiteプラン 150,000円(税込・平均約2ヶ月)、Basicプラン 330,000円(税込・平均約3ヶ月)、Proプラン 660,000円(税込・平均約6ヶ月)です。記載の期間は歯を動かす矯正期間であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。主なリスク・副作用として、歯の痛みや違和感、歯根吸収、歯ぐきの退縮に伴うブラックトライアングル(歯と歯の間の隙間)などが生じる場合があります。IPRを行う場合はエナメル質を削るため、知覚過敏が生じることがあります。重度の歯周病や顎関節症のある方、骨格性の不正咬合が強い方などは治療をお受けいただけない場合があります。なおLiteプランには安心保証制度・ワイヤー補償は付帯しません(Basic・Proプランのみ)。
よくある質問
Q. 矯正を始める前に、親知らずを抜いておいたほうがよいですか。
A. 一律には決まりません。系統的レビューでは、歯並びの安定を理由とした予防的な抜歯を支持する十分な根拠は得られていないとされています。ただし動かす計画上その場所が必要な場合や、別の理由がある場合は抜歯が行われます。判断は検査を経て行われます。
Q. 親知らずが生えてきたら、せっかく治した歯並びが戻りますか。
A. そう決まっているわけではありません。複数の系統的レビューで、親知らずの存在と後戻りの間に一貫した関連は示されていません。歯並びが年月を経て変わる要因は、他にもあります。
Q. 装置は親知らずまで覆いますか。
A. 設計によって異なります。覆われていない場合、その歯には力がかからず、動かす対象に入っていないことになります。どこまで覆う設計になっているかは、治療計画を確認する際にお尋ねください。
Q. 親知らずが途中まで生えていますが、装置は使えますか。
A. 生え方によって当たり方が変わります。装置の縁がその部分に触れることがあります。実際の適合は検査と装置の設計で確認されます。
まとめ
親知らずと透明な装置での矯正について、整理すると次のようになります。
- 🔴 「親知らずが押すから歯並びが崩れる」という説には、研究による裏づけが十分にない — 系統的レビューで一貫した関連は示されていない
- ⚠️ ただし「抜かなくてよい」という意味ではない — 虫歯、腫れ、隣の歯への影響など、別の理由での抜歯はある
- 🔴 透明な装置で問題になるのは「動かす先の場所」 — 奥歯を後ろへ動かす計画では、そこに親知らずがあると余地がない
- 🔴 押してくるからではなく、場所が要るから抜く — その計画を取らなければ、この理由での抜歯は生じない
- 🔴 装置に覆われていない歯には力がかからない — 計画上、動かす対象に入っていない
- 抜くかどうかに関わるのは — 生え方と向き、まわりの状態、計画上その場所が要るか
- 🔴 当院では親知らずの抜歯を行っていない
同じ状態の親知らずでも、方針によって扱いが変わります。先に決められるものではなく、検査と計画のなかで決まる項目です。
出典
- The Effect of Third Molars on the Mandibular Anterior Crowding Relapse—A Systematic Review(Dentistry Journal, 2023)
- The Role of Mandibular Third Molars on Lower Anterior Teeth Crowding and Relapse after Orthodontic Treatment: A Systematic Review

