抜歯は避けたいと伝えて、抜かずに進められそうだと聞いて安心した。ところが治療計画の説明で「歯と歯の間を少し削ります」と言われる。避けたはずのものが、形を変えて戻ってきたように感じる方は少なくありません。
このとき「0.5mm以下なので大丈夫です」と説明を受けることが多いのですが、0.5mmという数字だけでは判断のしようがありません。何に対して0.5mmなのかが分からないためです。
比較する対象を置くと、この数字の意味が変わります。歯の表面を覆うエナメル質は、厚みが2〜3mm程度あります。そしてIPRで実際に削られるのは0.25mm程度とされています。
この記事では、削る量をエナメル質の厚みと並べて見たうえで、処置の実際、痛みや虫歯のリスク、そして治療計画のどこで決まるのかを整理します。
IPRとはどういう処置か
まず、何をしているのかを確認します。
歯と歯が接する面を削る
IPRは、隣り合う歯が接している面のエナメル質をわずかに削り、すき間を作る処置です。ディスキング、あるいはストリッピングとも呼ばれます。
削るのは歯と歯の間であり、正面から見える表面ではありません。処置の後に見た目が変わることはほとんどありません。
目的は歯を動かす場所を作ること
なぜ削るのかというと、歯を並べるための場所が足りないためです。歯を動かすには、その歯が入る空間が要ります。わずかずつでも幅を詰めれば、その分だけ場所が生まれます。
見た目を整える処置とは目的が違う
同じ「歯を削る」でも、前歯の形やバランスを整える処置とは目的が異なります。あちらは見える部分の形を変えるもので、削る位置も量も違います。
形を整える目的の処置については前歯を削る費用はいくら?方法別の削る量と、削る前に確認したいことにまとめています。相談の場で話が食い違わないよう、どちらの意味かを確認しておくと行き違いを防げます。
削る量とエナメル質の厚み
ここが本題です。数字を並べて見ていきます。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| エナメル質の厚み | 2〜3mm程度 |
| IPRで削る量(上限) | 片側0.5mm以下 |
| 実際に削られる量 | 約0.25mm程度とされる |
エナメル質は2〜3mmある
歯の表面を覆っているエナメル質は、人体でもっとも硬い組織とされています。そして厚みは2〜3mm程度あります。
削るのは0.5mm以下、実際には0.25mm程度
IPRで削る量は、一箇所につき片側0.5mm以下が目安とされています。そして実際に削られるエナメル質は0.25mm程度とされています。
厚みの1割前後にとどまる
この2つを並べると、関係が見えてきます。2〜3mmある厚みのうち、0.25mm程度。割合にすると1割前後です。
「0.5mm以下」という数字だけを見ると、削られること自体に意識が向きます。しかし厚みと並べると、エナメル質という層の一部にとどまるという位置づけが分かります。この範囲であれば、歯の強度への影響は小さいとされています。
もちろん、削った分は元に戻りません。ただ、判断するときにはどの程度のことなのかを把握しておくほうが、納得して進められます。
処置は削って終わりではない
ここは、あまり説明されないものの重要な部分です。
削った直後の面は粗い
エナメル質を削ると、その面には細かい凹凸が残ります。表面が粗い状態になっているということです。
粗いままだとプラークが付きやすい
この状態のままでは、歯の汚れが付着しやすくなります。ざらついた面には、なめらかな面より汚れが留まりやすいためです。
研磨して仕上げる工程がある
そこで、削った後に研磨用の器具で面を滑らかに仕上げます。この工程によって、プラークの付着を抑えます。
研磨まで含めて一連の処置
つまりIPRは、削ることと仕上げることがセットになった処置です。削って終わりではありません。
このことを知っておくと、後述する虫歯のリスクについての理解も変わります。削られた面が粗いまま残るわけではない、という前提があるためです。
使われる器具
削り方には、大きく2つの方法があります。
ヤスリ状の器具を使う方法
薄い金属製の帯に研磨材が付いた器具(ストリップス)を、歯と歯の間に通して手作業で削る方法です。
回転器具を使う方法
タービンなどの回転する器具に、薄い円盤状やバー状の刃を付けて削る方法です。
部位や量によって使い分けられる
どちらが優れているというものではなく、削る場所や必要な量、歯並びの状態によって選ばれます。
痛みと知覚過敏
多くの方が気にする点です。
通常は痛みを生じないとされる
削る量がエナメル質の範囲にとどまるため、通常は痛みを生じないとされています。麻酔を使わずに行われることが多いのもこのためです。エナメル質そのものには神経が通っていません。
ただし例外はある
一方で、エナメル質が薄い場合には知覚過敏の症状が出ることがあります。厚みには個人差があり、誰でも同じというわけではありません。
しみる症状が出た場合
冷たいものがしみるといった症状が出ることがありますが、数日のうちに落ち着くことが多いとされています。
ただし、症状が続く場合や強くなる場合は、次の予約を待たずに相談してください。しみ方の程度は自分にしか分からないため、伝えないと対応のしようがありません。
自分の場合にIPRが必要になるのか、必要なら何ヶ所どのくらいになるのか。これは検査を受けて治療計画が立ってから決まります。診察料・検査料が無料であれば、費用をかけずに確認できます。
虫歯のリスクについて
削った部分から虫歯になるのではないか。これは自然な不安です。
不安の根拠
歯の表面が削られれば、その分だけ守りが薄くなるように感じます。また、歯と歯の間は歯ブラシが届きにくい場所でもあります。
適切に行われた場合について報告されていること
この点については、適切にIPRを行い、日常のケアを続けた場合、虫歯のリスクは上がらないとされています。
また、処置を行った歯と行っていない歯とで、虫歯の発生率に差がなかったという研究があるとされています。ただし、この研究の規模や対象、実施時期といった詳細までは確認できていないため、そういう報告があるという範囲で受け取ってください。
前提になっているもの
重要なのは、これらが何の前提もなく成り立つ話ではないという点です。前述した研磨による仕上げが行われていること、そして日常の歯みがきやフロスによる清掃が続いていること。この2つが前提になります。
歯と歯の間は、もともと汚れが残りやすい場所です。IPRの有無にかかわらず、フロスなどを使った清掃は必要です。矯正中の虫歯については歯科矯正は虫歯があってもできる?虫歯ができたときの対処法も紹介で扱っています。
IPRを慎重に判断する場合
どの歯並びにも同じように行えるわけではありません。
歯周病がある場合
歯周病が進行している状態では、先にそちらの治療を行ってからという判断になります。歯ぐきが下がっている状態でIPRを行うと、歯と歯の間の隙間が目立ちやすくなるためです。
歯と歯の間にできる三角形の隙間はブラックトライアングルと呼ばれます。歯周病が進むとこの隙間も広がっていくため、順序として歯周病の管理が先になります。
唾液が少ない場合
唾液には口の中を洗い流す働きがあります。分泌が少ない場合、削った面の清掃状態を保ちにくくなるため、慎重に判断されることがあります。
必要な量が足りない場合
IPRで作れる場所の量には限りがあります。歯並びを整えるのに必要な量がそれを超える場合は、抜歯や歯列の拡大、奥歯を後ろへ動かすといった別の方法が検討されます。この判断の仕組みについては後述します。
ブラックトライアングルの改善に使う場合もある
なお、IPRは場所を作る目的だけでなく、すでにあるブラックトライアングルを目立ちにくくする目的で行われることもあります。歯の形や接触する位置が原因であれば、接触面を調整することで隙間を狭められるためです。
ただし、隙間の主な原因が歯ぐきのボリューム不足にある場合は、IPRだけでは対応できません。歯ぐきに対する処置や被せ物との併用が必要になることがあります。原因によって取れる手段が変わるという点は、他の症状と同じです。
治療計画のどこで決まるか
いつ、誰が、どのくらい削るかを決めるのかを見ておきます。
治療計画を立てる段階で決まる
IPRの位置と量は、検査のあとに治療計画を作る段階で決まります。どの歯をどれだけ動かすかが決まれば、必要な場所の量も決まり、それに応じてIPRの箇所と量が組み立てられます。
契約前に説明を受けられる
つまり、治療を始める前の段階で内容が確定しています。シミュレーションで歯の動きを確認する際に、あわせて説明を受けられます。
確認するのは当然のこと
ここは押さえておきたい点です。どこを、何ヶ所、どのくらい削る計画なのか。これを尋ねるのは、遠慮すべきことではありません。
治療計画の内容を理解したうえで同意するのは、自由診療における通常の進め方です。抜歯を避ける方針にしてもらった、といった経緯があっても、確認を控える理由にはなりません。
なお、必要な場所の量が大きい場合には、IPRだけでは足りず抜歯が検討されることもあります。その判断の仕組みについては矯正で抜歯が必要な理由|不足するスペースの量から判断される仕組みにまとめています。
治療計画がどう作られるかの全体像は大阪でインビザラインを始めるには?相談から治療開始までの流れを解説で扱っています。
治療計画を事前に見たい場合
マウスピース矯正 Oh my teeth では、診察料・検査料は無料です。検査のうえで治療計画を立て、3Dシミュレーションで治療後の歯並びを確認できます。IPRが必要かどうか、必要ならどのあたりにどの程度かも、この段階で説明を受けられます。
歯を動かす期間は治療範囲によって変わり、後戻りを防ぐ保定期間は別に必要です。
自由診療に関する注記
マウスピース型矯正装置による歯列矯正は自由診療(保険適用外)です。マウスピース矯正 Oh my teeth の標準的な費用はLiteプラン 150,000円(税込・平均約2ヶ月)、Basicプラン 330,000円(税込・平均約3ヶ月)、Proプラン 660,000円(税込・平均約6ヶ月)です。記載の期間は歯を動かす矯正期間であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。主なリスク・副作用として、歯の痛みや違和感、歯根吸収、歯ぐきの退縮に伴うブラックトライアングル(歯と歯の間の隙間)などが生じる場合があります。IPRを行う場合はエナメル質を削るため、知覚過敏が生じることがあります。重度の歯周病や顎関節症のある方、骨格性の不正咬合が強い方などは治療をお受けいただけない場合があります。なおLiteプランには安心保証制度・ワイヤー補償は付帯しません(Basic・Proプランのみ)。
よくある質問
Q. 削った歯は元に戻りますか?
削ったエナメル質が再生することはありません。ただし削る量はエナメル質の厚みの一部にとどまり、削った面は研磨して仕上げられます。元に戻らないという点は、処置を受けるかどうかを考えるうえで押さえておく必要があります。
Q. 何ヶ所くらい行うものですか?
必要な場所の量によって変わるため、一概には言えません。1〜2ヶ所で済む場合もあれば、複数の歯の間で行う場合もあります。歯並びの状態と治療計画によって決まるものなので、計画の説明時に確認することになります。
Q. IPRを断ることはできますか?
希望を伝えることはできます。ただしIPRで場所を作る計画になっている以上、行わなければ別の方法で場所を確保するか、動かす範囲を変えることになります。どういう代案があるのかを聞いたうえで判断するとよいでしょう。
Q. 削った後、フロスは通しやすくなりますか?
歯と歯の間にわずかな隙間ができるため、通しやすく感じる場合があります。ただし作られる隙間は歯を動かすためのもので、治療が進むにつれて歯が寄っていきます。通しやすさは治療の段階によって変わると考えておくとよいでしょう。いずれの段階でも、間の清掃は続けることになります。
Q. 削った部分に着色しやすくなりますか?
研磨によって面が滑らかに仕上げられていれば、着色が特に付きやすくなるということはないとされています。ただし歯と歯の間はもともと清掃が届きにくい場所のため、フロスなどによるケアは続けることになります。
まとめ
IPRは、歯と歯が接する面のエナメル質をわずかに削って場所を作る処置です。削る量は片側0.5mm以下が目安で、実際には0.25mm程度とされています。
この数字は、エナメル質の厚みと並べると意味が分かります。厚みは2〜3mm程度あるため、削られるのはその1割前後にとどまります。「0.5mm以下」という数字だけでは判断しにくいものが、比較対象を置くことで位置づけが見えてきます。
そして処置は削って終わりではありません。削った面は研磨して滑らかに仕上げられます。虫歯のリスクについて「上がらないとされる」という報告があるのも、この仕上げと日常の清掃が前提になっています。
また、どの歯並びにも同じように行えるわけではありません。歯周病がある場合は先にその治療が必要になりますし、必要な場所の量がIPRで作れる範囲を超える場合は、抜歯を含む別の方法が検討されます。
IPRの位置と量は治療計画の段階で決まるため、契約前に確認できます。どこを何ヶ所どのくらい削る計画なのか。これを尋ねることは、遠慮すべきことではありません。抜歯を避ける方針にしてもらった経緯があっても、確認を控える理由にはなりません。
出典
- インビザラインのIPRは危険?削る量の目安と安全性を徹底解説(オーラルビューティークリニック クラリス歯科・矯正歯科)(エナメル質の厚み2〜3mm、実際の削合量約0.25mm、研磨の工程、虫歯発生率の研究)
- そのディスキング(IPR)は本当に必要?後悔しないために知っておくべきこと(東京日本橋エムアンドアソシエイツ矯正歯科)
- インビザライン矯正で歯を削る、ディスキング(IPR)について知っておこう(タワーサイド歯科室)(器具の種類)
- 矯正治療で歯のエナメル質を削るIPRは何のために行うの?(大阪矯正歯科グループ)
- IPRをする理由と注意点とは?(梅田クローバー歯科・矯正歯科)(歯周病・唾液分泌が少ない場合の判断)
- ブラックトライアングル治療(四日市はぎのや歯科・矯正歯科)(原因別の対応)

