歯並びを整えるために始めた治療なのに、噛み合わせのほうが気になるようになった。マウスピースを外して食事をすると、前歯だけが当たって奥歯で噛めない。そういう状態に気づくと、治療がうまくいっていないのではないかと感じます。
調べると「一時的なものです」と書かれた記事が見つかります。ただ、なぜ一時的だと言えるのかまでは説明されていないことが多く、それだけでは受け取りにくいものです。
この現象には、マウスピースという装置の構造から説明できる部分があります。歯列全体を包み込むという形が、噛み合わせに一時的な影響を与えるためです。
この記事では、何が起きているのかを装置の構造から見たうえで、経過の見通しと、相談したほうがよい場合の線引きを整理します。
どういう症状が起きているか
まず、よく聞かれる状態を挙げます。
外したときに奥歯が当たらない
マウスピースを外して噛んでみると、奥歯が接触していない感じがする。前歯は当たるのに、奥では噛めない。食事のときにとくに意識される状態です。
装置が奥歯で浮いている
マウスピースを着けたとき、奥歯の部分だけ隙間があるように感じる。指で押すと沈むが、離すとまた浮く。パカパカするという表現をされることもあります。
噛む位置が定まらない
どこで噛めばよいのか分からない、噛むたびに当たる場所が違うという感覚が出ることもあります。
気づくのは特定の場面が多い
これらの症状は、常に意識されるわけではありません。装置を外して食事をするとき、朝起きて装置を外したとき、新しいマウスピースに交換した直後。装着と非装着が切り替わる場面で気づかれることが多くなります。
装置を着けている間は、上下の歯が装置越しに接するため、歯そのものの当たり方は意識されにくいためです。
別々に見えて共通する背景がある
これらは症状としては違って見えますが、背景には共通する要素があります。装置の構造と、歯を動かす過程です。順に見ていきます。
装置の厚みがもたらす力
ここが本題です。
マウスピースは歯列全体を包み込む
マウスピースは歯を1本ずつ覆うのではなく、歯列全体にはめ込む形をしています。当然、歯の噛む面も覆われます。
上下の歯の間に厚みが挟まる
装置を着けた状態で噛むと、上下の歯の間にはマウスピースの厚みが入っています。歯どうしが直接当たるのではなく、装置を介して力が伝わる状態です。
噛むたびに、装置越しに歯が押される
この状態で噛むと、力は装置を介して歯へ伝わります。向きとしては、歯を歯ぐきのほうへ押し込む向きです。1回あたりはわずかですが、1日20時間以上装着していれば、その時間ずっと働き続けることになります。
歯が圧下することがある
この力が続くと、歯が圧下することがあります。圧下とは、歯が根の方向へ移動することです。とくに奥歯は噛む力が直接かかる場所であるため、影響を受けやすい部位になります。
だから外した直後に噛み合わないと感じる
沈み込む方向へわずかに移動した状態で装置を外せば、奥歯の高さは以前より低くなっています。その結果、前歯が先に当たり、奥歯が当たらないという感覚が生じます。
つまりこの症状は、装置が効いていないから起きるのではなく、装置が歯列全体に力をかけている構造の副次的な結果として起きています。
同じ力が別の場面では課題になる
この「沈み込む力」は、別の場面では治療上の課題として現れます。噛み合わせが深い状態を改善するには奥歯を引っ張り出す動きが必要になるため、装置の構造がその動きと逆に働くという問題です。詳しくは噛み合わせが深いとマウスピース矯正は難しい?理由を装置の構造から解説にまとめています。
同じ物理が、一方では治療中の症状として、もう一方では適応の難しさとして現れるということです。
動かす順序によって生じるずれ
もうひとつの要素があります。
すべての歯が同時に動くわけではない
治療計画では、歯を動かす順序が設計されています。すべての歯が同じタイミングで同じだけ動くのではなく、段階を追って進んでいきます。
一部が先に動けばバランスは崩れる
そうすると、途中の段階では一部の歯だけが新しい位置にあり、他の歯はまだ元の位置に近いという状態が生じます。上下の歯が噛み合う関係は全体のバランスで成り立っているため、一部が動けば当たり方が変わります。
これは咬合の一時的なアンバランスと呼ばれる状態です。どの歯から動かすかは症例や治療計画によって異なりますが、順序がある以上、途中でずれる時期が生じうるという点は共通しています。
上下の関係は全体で成り立っている
噛み合わせは、1本の歯だけで決まるものではありません。上下の歯が互いに支え合う形で、全体として安定しています。
そのため、たとえ動かしているのが数本であっても、当たり方の変化は歯列全体に及びます。動かしていない歯の当たり方まで変わるのはこのためです。「治療しているのは前歯なのに、なぜ奥歯が」と感じる場合、この構造が背景にあります。
進むにつれて整っていく
他の歯が追いついてくることで、当たり方は再び変わっていきます。治療の途中段階で噛み合わせが変に感じることと、最終的な噛み合わせがどうなるかは別のことです。
治療中に感じる不安全般についてはインビザラインをやらなきゃよかった?後悔しやすい時期とその理由を解説でも扱っています。
多くは経過とともに変わる
見通しについて触れておきます。
治療中に生じる一時的なものとされる
奥歯が噛み合わない状態は、治療の過程で生じる一時的なものとされています。原因がはっきりしていれば、適切な対応によって改善へ向かうとされます。
ただし自動的に解決するとは限らない
一方で、放っておけば自然に元通りになる、と決まっているわけでもありません。原因が装置の厚みによるものなのか、動かす順序によるものなのか、それとも装置が合っていないことによるものなのか。どれに当たるかによって、必要な対応は変わります。
そしてこの判別は、口の中を見ないとできません。次の見出しで、相談の目安を整理します。
これから治療を検討する方であれば、治療の途中段階でどう変化するかを含めて、事前にシミュレーションで確認できます。診察料・検査料が無料であれば、費用をかけずに相談できます。
相談したほうがよい場合
「一時的なものが多い」ということと、「待っていればよい」ということは別です。次のような場合は、経過を見るより伝えたほうが早く進みます。
症状が長く続いている
数週間から1ヶ月以上、同じ状態が変わらないまま続いている場合です。マウスピースは定期的に交換していくものなので、交換をまたいでも変化がないときは伝えておく価値があります。
装置の浮きが改善しない
奥歯の部分が浮いたまま、押しても密着しない状態が続く場合です。装置が歯にしっかり合っていないと、計画どおりの力がかかりません。
痛みをともなう
違和感ではなく痛みがある場合、噛み合わせのバランスの問題だけではない可能性があります。
食事に支障が出ている
噛めないために食べられるものが限られている、食事に時間がかかるようになったという場合は、生活への影響として伝えるべき内容です。
判断を先送りしないほうが早い
いずれの場合も、予約の日まで様子を見るより、その時点で伝えるほうが結果的に早く進みます。原因の切り分けは口の中を見なければできないため、待っている時間は判断が保留されている時間でもあるためです。
矯正は長期にわたる治療で、途中の状態を共有しながら進めるものです。気づいた側から伝えることは、治療の一部と考えて差し支えありません。
伝え方の具体
「噛み合わせが変な気がします」と伝えると、返ってくる答えも漠然としたものになりがちです。次の4点を添えると、話が具体的になります。
いつからか
何枚目のマウスピースに交換した頃からか。日付や枚数が分かると、治療のどの段階で起きたかが特定しやすくなります。
どの歯か
左右どちらか、あるいは両方か。奥歯のどのあたりか。指で示せる範囲で構いません。
どういうときか
装置を着けているときか、外した後か。外した直後なのか、しばらく経ってからも続くのか。食事のときだけか。装着中と装着後で状況が違う場合、それ自体が判断の手がかりになります。
どのくらいか
少し当たらない程度なのか、まったく噛めないのか。程度が伝わると、緊急性の判断がしやすくなります。
具体的に伝えることの意味
これらを添えると、「よくあることです」という一般的な返答で終わりにくくなります。担当の歯科医師を疑うということではなく、判断に必要な情報を渡すという意味です。同じ症状名でも背景が違えば対応も変わるため、情報が多いほど的確な判断につながります。
装着中にできること
伝えるのと並行して、自分でできることもあります。
チューイーを使う
チューイーは、マウスピースと歯を密着させるための柔らかいシリコン製の補助具です。新しいマウスピースに交換した際などに、1日数回噛むことで、浮きの軽減が期待できるとされています。
使い方や回数は指示に従ってください。渡されていない場合は、相談の際に聞いてみるとよいでしょう。
装着時間を保つ
装着時間が不足すると、歯が計画どおりに動かず、ずれが長引くことがあります。噛みにくいからといって装着時間を減らすと、かえって状態が続きやすくなります。
自己判断で対処を終わらせない
これらは補助的な手段です。症状が続く場合には、対処を続けるより伝えるほうが早く解決します。
治療後の噛み合わせについて
最終的な状態についても触れておきます。
噛み合わせも治療のゴールに含まれる
矯正治療は歯を並べるだけでなく、上下の歯が適切に噛み合う状態を目指すものです。途中段階での当たり方の変化は、その過程で生じるものです。
装置によっては調整に限りがある場合もある
一方で、噛み合わせの改善には装置の得手不得手があります。上下方向の調整が多く必要な場合など、マウスピース矯正だけでは対応が難しいこともあります。詳しくはマウスピース矯正ができない6つの症例!対処法や治療方法もご紹介にまとめています。
噛み合わせ全般を装置を問わず知りたい場合は噛み合わせは歯科矯正で治る?を、前歯が当たらない状態については前歯が当たらない噛み合わせはどうやってなおす?開咬について解説をご覧ください。
保定期間へ
歯を動かし終えたあとは、位置を保つ保定期間があります。噛み合わせを含めて安定させる期間になります。
治療前に経過を把握しておくには
マウスピース矯正 Oh my teeth では、診察料・検査料は無料です。治療計画の段階では3Dシミュレーションで歯の動きを確認でき、途中でどのように動いていくかも含めて事前に把握できます。
途中段階で当たり方が変わることをあらかじめ知っておけば、実際に起きたときの受け止めが変わります。歯を動かす期間は治療範囲によって変わり、後戻りを防ぐ保定期間は別に必要です。
自由診療に関する注記
マウスピース型矯正装置による歯列矯正は自由診療(保険適用外)です。マウスピース矯正 Oh my teeth の標準的な費用はLiteプラン 150,000円(税込・平均約2ヶ月)、Basicプラン 330,000円(税込・平均約3ヶ月)、Proプラン 660,000円(税込・平均約6ヶ月)です。記載の期間は歯を動かす矯正期間であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。主なリスク・副作用として、歯の痛みや違和感、歯根吸収、歯ぐきの退縮に伴うブラックトライアングル(歯と歯の間の隙間)などが生じる場合があります。IPRを行う場合はエナメル質を削るため、知覚過敏が生じることがあります。重度の歯周病や顎関節症のある方、骨格性の不正咬合が強い方などは治療をお受けいただけない場合があります。なおLiteプランには安心保証制度・ワイヤー補償は付帯しません(Basic・Proプランのみ)。
よくある質問
Q. いつごろ戻りますか?
時期を一律に示すことはできません。原因が装置の厚みによるものか、動かす順序によるものか、あるいは装置の適合によるものかで経過が変わるためです。数週間で変わることもあれば、治療の段階が進むまで続くこともあります。気になる期間が長い場合は、待つより伝えるほうが確かです。
Q. 噛めないので食事がしづらいのですが、どうすればよいですか?
食べにくさが続いている場合は、その旨を伝えてください。食事に支障が出ているかどうかは、対応の優先度を判断する材料になります。一時的にやわらかいものを選ぶといった工夫はできますが、状態を伝えないまま続けるのは避けたほうがよいでしょう。
Q. マウスピースを外している時間を増やせば改善しますか?
装着時間を減らすことはおすすめできません。歯が計画どおりに動かなくなり、結果として噛み合わせが整うまでの期間が延びる可能性があります。噛みにくさへの対応は、装着時間を削る以外の方法で相談することになります。
Q. 治療が失敗しているということですか?
途中段階で当たり方が変わること自体は、治療の過程で生じうるものです。ただし、それが想定内の変化なのか、計画とのずれによるものなのかは、口の中を見なければ判断できません。判断がつかないことを不安に思う必要はなく、判断できる人に見てもらえばよいという位置づけです。
まとめ
マウスピース矯正の途中で奥歯が噛み合わないと感じるのは、装置の構造から説明がつく部分があります。マウスピースは歯列全体を包み込むため、上下の歯の間に厚みが挟まり、噛むたびに歯へ沈み込む方向の力がかかります。この力によって奥歯がわずかに圧下すると、外したときに前歯が先に当たる状態になります。
あわせて、歯を動かす順序の都合で一部の歯が先に動き、一時的に噛み合わせのバランスが崩れる時期もあります。
これらは治療の過程で生じるものとされますが、放っておけば自然に元通りになると決まっているわけではありません。症状が長く続く、装置の浮きが改善しない、痛みがある、食事に支障が出ている。こうした場合は、次の通院を待たずに伝えてください。その際、いつから・どの歯が・どういうときに・どのくらい、という4点を添えると、判断に必要な情報が揃います。
出典
- インビザラインで奥歯が噛み合わない原因と対処法|いつ治る?マウスピース矯正中の違和感を解説(安岡デンタルオフィス江坂)(装置の厚みによる圧下、咬合の一時的なアンバランス)
- インビザライン治療中に奥歯のかみ合わせが悪くなる【正体】(まきの歯列矯正クリニック)
- 奥歯が噛み合わない?マウスピース型矯正装置による対処方法について(東京日本橋エムアンドアソシエイツ矯正歯科)
- マウスピース矯正が浮くのは何が問題?原因と許容範囲と対処法(恵比寿デンタルクリニック)(チューイーの使用)

