歯並びについて「きれいですね」と言われてきた。実際、歯は重なっていないしすき間もない。それなのに横顔を見ると口元が前に出ている——という状態があります。
このとき自然に出てくるのが、「歯には問題がないのだから、原因は骨格や顔の作りのほうだ」という考え方です。そうなると矯正では解決しない、という結論に向かいます。
ただしこの推論には、途中が抜けています。「歯並びが良い」というのは並びについての評価であって、歯が前後どこにあるかは含まれていません。この2つは別の軸です。
この記事では、口元の突出が何でできているのかを層に分けて、どこまでが歯を動かす治療で扱える範囲なのかを整理します。
「歯並びが良い」が指しているもの
歯の状態を見るとき、実際には性質の違う2つの軸があります。
| 軸 | 内容 | どこから見て分かるか |
|---|---|---|
| 並び(配列) | 重なり・ねじれ・すき間がないか | 正面 |
| 位置(前後・傾き) | 歯列全体がどこにあるか、前歯がどの角度で立っているか | 横 |
「きれいですね」と言われるとき、見られているのは並び
歯並びについての評価は、多くの場合歯が一列にそろっているかどうかを指しています。重なっていない、ねじれていない、すき間がない。これらはいずれも並びについての情報です。
並びが整っていても、歯列全体が前方にあることはありうる
ここが分かれ目です。そろっていることと、そろった列がどこに立っているかは別の話です。
隊列がまっすぐ整っていても、その隊列が前寄りに立っていることはあります。歯も同じで、一列にきれいに並んだまま、全体が前方に位置しているという状態が成立します。
正面から見て分かるのは並びまで
鏡で自分の歯を見るとき、多くの人は正面から見ます。この向きから分かるのは並びです。歯列が前後どこにあるか、前歯がどの角度で立っているかは、正面からは判断できません。
横顔の写真で気づくのはこのため
横から見ると、はじめて前後の情報が入ってきます。「正面の写真では気にならないのに、横顔だと口元が気になる」という感じ方は、見ている軸が違うことから来ています。
自分で確認するときの撮り方については、以下の記事で扱っています。
口元の突出は4つの層でできている
では、口元が前に出て見える状態は何でできているのか。原因を並べるのではなく、層に分けて、それぞれが歯を動かす治療で扱えるかどうかを見ていきます。
| 層 | 内容 | 歯を動かす治療で扱えるか |
|---|---|---|
| ① 歯の前後位置・傾き | 歯列の位置、前歯の角度 | 扱える |
| ② 歯を支える骨 | 歯の土台の張り出し | 歯の移動に伴って一部変化する |
| ③ 顎の骨格 | 上下の顎の前後関係 | 歯の移動では変えられない |
| ④ 軟組織 | 唇の厚み、口周りの筋肉 | 矯正の対象外 |
① 歯の前後位置と傾き
歯が外側に傾いていると、その歯に押されて唇が前へ出ます。並びが整っていても、傾きが前方向であれば口元は前に出ます。
この層は、歯を動かす治療で扱える範囲です。
② 歯を支える骨
歯は歯槽骨と呼ばれる骨に植わっており、この部分の張り出しも口元の形に関わります。歯を動かすと、それに伴って変化する部分があります。
③ 顎の骨格
上顎が前方に位置している、下顎が後方に下がっている、といった顎そのものの前後関係です。この層は歯を動かしても変わりません。
程度が大きい場合には、外科的な処置を含む治療が検討されることがあります。
④ 軟組織
唇の厚みや、口周りの筋肉の量によっても、口元の見え方は変わります。この層は矯正治療の対象ではありません。
歯を後方へ動かしても、唇そのものの厚みは変わらないため、この層が主因の場合、矯正では見え方が変わりにくくなります。
どの層が主因かで、できることが変わる
多くの場合、これらは単独ではなく組み合わさっています。①が大きく関わっているなら歯を動かす治療で変化が見込めますが、③④が主因であれば、扱える範囲は限られます。
そしてどの層がどれだけ関わっているかは、外から見て分けられるものではありません。
口ゴボ全般の原因や治療方法については、以下の記事にまとめています。
並びが整っている場合に多い形
上下の前歯がそろって前方に傾いている
並びに乱れがないのに口元が出ている状態でよく見られるのが、上下の前歯がともに前方へ傾いているという形です。歯科では上下顎前突と呼ばれます。
重なりがないため、正面からは整って見える
この状態では歯が一列にそろっていることが多く、重なりもねじれもありません。そのため正面から見るかぎり「きれいな歯並び」と評価されます。
「並びに乱れがない口ゴボ」が成立するのは、この形があるためです。
唇が歯を覆いきるのに力が要る
前歯が前方に位置していると、唇が歯を覆いきるのに力が要ります。自然に閉じると隙間ができ、閉じようとすると顎の先に力が入ってしわが寄る、という状態が起こることがあります。
噛み合わせに問題がないこともある
上下がそろって前に出ている場合、上下の噛み合わせ自体は成立していることがあります。機能的な問題として指摘されにくいのは、このためです。
習癖が関わるとされている
舌で前歯を押す癖、口呼吸が習慣化していることなどが、歯の傾きに関わるとされています。ただしどの程度関わっているかを個別に判定できるものではありません。
前歯を「傾ける」のと「平行に下げる」のは別の動き
ここは、並びが整っている場合に特有の論点です。
内側に傾けるだけでは足りないことがある
前歯が前に出ている状態を改善するとき、単純に考えれば「内側に倒す」ことになります。しかしすでに並びが整っている場合、傾けるだけでは歯が内側に倒れた状態になります。
列としては下がっても、歯の向きが不自然になることがあります。
根元から平行に後退させる動きが必要になる
そこで求められるのが、歯の頭だけでなく根も含めて、平行に後方へ移動させるという動かし方です。歯体移動と呼ばれます。
歯の頭と根の両方に力を配分する必要があり、単に傾ける動きとは別の制御が要ります。
平行に動かすほうが難度が高い
歯を傾ける動きに比べ、平行に移動させる動きは難度が高くなります。動かす距離が大きくなるほど、その傾向は強くなります。
大きく動かす場合、マウスピース矯正では対応が難しいことがある
このため、前歯を大きく後退させる必要がある場合や、抜歯を伴う治療になる場合は、マウスピース矯正では対応が難しいことがあります。装置の得意な動きと必要な動きが合わないためです。
適応の範囲については、以下の記事で扱っています。
後方に動かす先の余地があるか
もうひとつ、前歯を後方へ動かすにはその分の場所が必要です。並びが整っていても、下げるための場所があるかどうかは別の問題です。
場所が足りるかどうかの判断については、以下の記事にまとめています。
どの層が関わっているかは、検査を受けることで評価できます。当院では診察料・検査料が無料です。
相談のときに何を見てもらうか
「歯並びはきれいですね」で終わってしまうのではないか、という懸念はもっともです。実際、並びだけを見ればそうなります。そうならないための伝え方があります。
「歯並び」ではなく「口元の突出」を主訴として伝える
相談の入口を「歯並びを見てほしい」にすると、評価されるのは並びになります。気になっているのが口元の出方であることを、最初に伝えます。見てもらう対象が変わります。
横顔の状態が気になっていると伝える
正面ではなく横から見たときの見え方が気になっている、と具体的に言い添えると、評価の向きが揃います。
どの層が主因かを評価してもらう
歯の傾きによるものなのか、顎の骨格によるものなのか、あるいは軟組織によるものなのか。この切り分けが、できることの範囲を決めます。
治療の内容が何によってどの順に決まるのかについては、以下の記事で整理しています。
歯を動かした場合に何がどこまで変わりうるかを聞く
歯を後方へ移動させた場合に、口元の見え方がどう変わりうるか。ここは事前に説明を受けられる部分です。
ただし、歯並びのシミュレーションで確認できるのは歯の位置の変化であり、顔全体の見え方を予測するものではありません。
「矯正では変わらない」と分かることにも意味がある
軟組織が主因だった場合、歯を動かしても口元の見え方は大きく変わりません。この結論が出ることも、判断材料としては有効です。期待したまま治療を始めて、終わってから違いに気づくよりも、先に分かるほうが選択肢は残ります。
層を分けて評価してもらうには
口元が前に出て見える状態が、歯の位置によるものなのか、骨格や軟組織によるものなのか。これは外から見て分けられるものではなく、検査を経て評価される部分です。
当院では口腔内をスキャンして状態を確認し、歯を動かした場合の歯並びを3Dのシミュレーションで見ていただけます。これは歯並びのシミュレーションであり、顔全体の変化を示すものではありません。診察料・検査料は無料です。
なお、顎の骨格や唇の厚みが主な要因である場合、歯を動かしても口元の見え方は大きくは変わりません。また前歯を大きく後退させる必要がある場合、マウスピース矯正では対応できないことがあります。その場合は、対応できる治療を扱う医療機関での相談が必要になります。
自由診療に関する注記
マウスピース型矯正装置による歯列矯正は自由診療(保険適用外)です。マウスピース矯正 Oh my teeth の標準的な費用はLiteプラン 150,000円(税込・平均約2ヶ月)、Basicプラン 330,000円(税込・平均約3ヶ月)、Proプラン 660,000円(税込・平均約6ヶ月)です。記載の期間は歯を動かす矯正期間であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。主なリスク・副作用として、歯の痛みや違和感、歯根吸収、歯ぐきの退縮に伴うブラックトライアングル(歯と歯の間の隙間)などが生じる場合があります。IPRを行う場合はエナメル質を削るため、知覚過敏が生じることがあります。重度の歯周病や顎関節症のある方、骨格性の不正咬合が強い方などは治療をお受けいただけない場合があります。なおLiteプランには安心保証制度・ワイヤー補償は付帯しません(Basic・Proプランのみ)。
よくある質問
Q. 歯並びがきれいだと、矯正はできないのでしょうか。
A. 並びが整っていることと、歯が適切な前後位置にあることは別です。並びに乱れがなくても、歯列全体が前方に位置していることはあります。扱える範囲があるかどうかは、検査で位置を評価してから判断される部分です。
Q. 唇の厚みが原因の場合はどうなりますか。
A. 唇や口周りの軟組織は、矯正治療の対象ではありません。歯を動かしてもこの部分の厚みは変わらないため、ここが主な要因であれば、矯正による見え方の変化は限られます。当院は矯正歯科であり、この層への対応は行っていません。
Q. 口元を下げるのに抜歯は必要ですか。
A. 前歯を後方へ動かすために必要な場所の量によります。足りていれば抜かずに進められることがあり、足りなければ抜歯を含む方針が検討されます。判断の仕組みは矯正で抜歯が必要な理由|不足するスペースの量から判断される仕組みで扱っています。
Q. マウスピース矯正で対応できますか。
A. 動かす量によります。前歯を大きく後退させる必要がある場合や、抜歯を伴う場合には、マウスピース矯正では対応が難しいことがあります。必要な動きの内訳が分かってから判断される部分です。
まとめ
歯並びが整っているのに口元が出ている、という状態は次のように整理できます。
- 「歯並びが良い」は並びについての評価であり、歯の前後位置は含まれていない
- 正面から分かるのは並びまで。位置は横から見なければ分からない
- 口元の突出は4層でできている — ①歯の位置と傾き ②歯を支える骨 ③顎の骨格 ④軟組織。歯を動かす治療で扱えるのは①(と②の一部)
- 並びが整っている場合、上下の前歯がそろって前方に傾いている形が多い
- 必要になるのは「傾ける」より「平行に下げる」動きで、難度が高い。大きく動かす場合はマウスピース矯正では対応が難しいことがある
「歯並びが良いから矯正は関係ない」という結論は、並びと位置を同じものとして扱ったときに出てきます。気になっているのが口元の出方であれば、見てもらう対象はそこだと伝えることから始まります。
出典
- 上下顎前突について(口ゴボ)(氏井矯正歯科クリニック)
- 歯並びは綺麗なのに口ゴボになる原因とは?詳しく解説(江口矯正歯科クリニック)
- 歯並びが良くても口ゴボは矯正した方がいい?口ゴボになる原因と治療方法(犬木歯科医院)

