矯正の期間を調べると、数ヶ月から数年まで、記事によって幅のある数字が並びます。同じ装置についてでも数字が違うことがあり、比べようがないと感じるかもしれません。
原因のひとつは、その数字が何から何までを含んでいるかが揃っていないことです。矯正にかかる時間は、性質の違う4つの区間に分かれます。そして一般に「治療期間」として案内されるのは、そのうちの1つだけです。
もうひとつの原因は、期間が装置ではなく動かす距離で決まるという点です。歯が動く速度には上限があり、これは装置を変えても変わりません。
この記事では、この2つを軸に整理します。
「期間」は4つの区間に分かれている
矯正を考え始めてから完全に終わるまでには、次の4つの区間があります。
| 区間 | 内容 | 「治療期間」に含まれるか |
|---|---|---|
| ① 相談から治療開始まで | 検査・治療計画の作成・装置の製作 | 含まれないことが多い |
| ② 歯を動かす期間 | 実際に歯が移動している期間 | これが「治療期間」 |
| ③ 延長 | 計画を立て直した場合など | 見込みには含まれない |
| ④ 保定期間 | 動かし終えた位置を保つ期間 | 含まれない |
①は治療が始まる前の期間
相談を受けてから実際に装置を使い始めるまでには、検査、治療計画の作成、装置の製作といった工程があります。この間はまだ歯は動いていません。
何がどの順で行われるかについては、以下の記事で扱っています。
②が一般に案内される「治療期間」
医院やブランドが示す「治療期間◯年」という数字は、通常この区間を指しています。装置を使い始めてから、計画上の移動が完了するまでです。
③は見込みに含まれない
計画どおりに進まなかった場合、期間が延びることがあります。これは事前の見込みには入っていません。どういう場合に起こるのかは後述します。
④は動かし終えたあとに続く
歯を動かし終えたあと、その位置を保つための期間が続きます。これも「治療期間」には含まれないのが一般的です。
保定に使う装置や、その期間の考え方については、以下の記事にまとめています。
数字が一致しない原因はここにある
読者が知りたい「終わるまで」は①〜④の合計です。一方、案内される「治療期間」は②だけです。
同じ「期間」という言葉で、違う範囲を指している。記事ごとに数字が違って見える理由の多くは、ここにあります。数字を比べる前に、それがどの区間を指しているのかを確認する必要があります。
歯が動く速度には上限がある
次に、②の長さが何で決まるのかを見ていきます。
歯は骨の中を移動している
歯は顎の骨に植わっており、一定の力がかかり続けると、進行方向にある骨が溶かされ、反対側に新しい骨が作られます。この繰り返しによって、歯は骨の中を少しずつ移動していきます。
1ヶ月に動く量は0.5〜1mm程度とされる
この移動の速度には目安があり、1ヶ月あたり0.5〜1mm程度とされています。歯の頭の部分(歯冠)は最大1mm程度、根の部分(歯根)は最大0.5mm程度というのが一般的な範囲です。
骨を作り直す速度が上限を決めている
なぜこの範囲に収まるかというと、骨を溶かして作り直すという反応そのものに時間がかかるためです。硬い組織を吸収し、新たに形成する。この過程の速度が、歯の移動速度を決めています。
力を強くすれば速く動く、という関係にはなっていません。強い力をかけても、骨の再生が追いつかなければ、歯は計画どおりには動きません。
無理に速めた場合に起こりうること
さらに、過剰な力をかけることにはリスクがあります。歯の根が短くなる歯根吸収や、歯ぐきが下がる歯肉退縮が起こりうるとされています。
速度に上限があるのは技術的な制約ではなく、体の側にある条件です。
だから「速く動かす装置」というものはない
以上から言えるのは、装置を変えれば歯が速く動くわけではないということです。速度の上限は装置ではなく体の側にあるため、どの方法を選んでも、1ヶ月に動く量の範囲は大きくは変わりません。
期間は距離で決まる
期間は、動かす距離を速度で割ったもの
速度に上限があるということは、②の長さを決めているのは動かす距離だということになります。
長い距離を動かす必要があれば時間がかかり、短い距離で済むなら短くなる。単純ですが、これが基本の構造です。
動かす距離は歯並びの状態で決まる
どのくらい動かす必要があるかは、歯がどれだけずれているか、何本を動かすか、噛み合わせをどこまで扱うかによって決まります。
歯を並べる場所が足りているかどうかも、動かす距離に関わります。この判断の仕組みについては、以下の記事で扱っています。
距離が確定するのは、検査を経てから
そして動かす距離は、検査を受けて治療計画が組み上がった段階で確定します。それより前の段階では、期間も確定しません。
治療の内容が何によってどの順に決まるのかについては、以下の記事で整理しています。
同じ装置でも人によって期間が違うのはこのため
装置別の期間として「1〜3年」といった幅のある数字が示されるのは、その装置で扱う症例の距離に幅があるからです。装置が期間を決めているのではなく、距離の分布を装置ごとにまとめて表示しているという形になっています。
だから短くする方法は「距離を短くする」しかない
治療範囲を限定すれば距離は短くなる
期間が距離で決まるなら、短くする方法は距離を減らすことになります。具体的には、動かす歯の本数と、動かす量を減らすことです。
前歯を中心とした範囲に限定する治療が短い期間で終わるのは、この理由によります。
ただし範囲を限定できるかは状態による
一方で、範囲を限定できるかどうかは希望では決まりません。噛み合わせをどこまで扱う必要があるか、歯を並べる場所が足りているかによって、動かさなければならない範囲は変わります。
短くしたいという理由で範囲を狭めると、必要な移動が入りきらないことがあります。
「短くする方法」の多くは「延ばさない方法」
ここが混同されやすい部分です。期間を短くする方法として、次のようなものが挙げられることがあります。
- 装着時間を守る
- 通院を欠かさない
- 指示された使い方をする
これらはいずれも重要ですが、計画より早く終わらせる手段ではありません。計画どおりに進めるための条件です。
守らなければ延びる。守れば計画どおりに進む。「延ばさない方法」であって「短くする方法」ではないという整理になります。
この区別を持っておくと、期待がずれない
装着時間を守れば予定より早く終わる、と考えていると、計画どおりに終わったときに「思ったより長かった」と感じることになります。基準になるのは計画のほうです。
自分の場合にどのくらいの距離を動かすことになるのかは、検査を受ければ分かります。当院では診察料・検査料が無料です。
期間が延びるのはどういうときか
区間③にあたる部分です。
計画と実際の動きにずれが生じたとき
歯の動き方には個人差があり、計画どおりに進まないことがあります。その場合、あらためて状態を確認したうえで計画を立て直すことになります。
マウスピースを使う治療でこの工程がどう組み込まれているかについては、以下の記事で扱っています。
装着時間や通院が計画どおりでなかったとき
前述のとおり、装着時間が不足すれば計画上の移動が完了しません。その分が後ろにずれ込みます。
治療の途中で別の処置が必要になったとき
虫歯や歯周病の治療が必要になった場合、そちらを優先することがあります。矯正の進行が一時的に止まるため、全体の期間は延びます。
延長は起こりうるものとして見込んでおく
これらは特別な事態ではなく、一定の割合で起こるものです。事前に「延びる可能性があるか」「その場合の費用の扱いはどうなるか」を聞いておくと、実際に起きたときの受け止めが変わります。
治療中に期間の延長を告げられたときの心理については、以下の記事で扱っています。
どのくらい延びるかは事前には決まらない
延長の幅は、何がどの程度ずれたかによります。事前に「最大◯ヶ月」と決まっているものではありません。
保定期間は別枠で考える
動かし終えた歯は元の位置に戻ろうとする
歯を移動させたあと、そのまま何もしなければ、歯は元の位置へ戻ろうとします。これは歯を支えている組織の性質によるものです。
そのため位置を保つ期間が続く
戻りを抑えるために、動かし終えたあとも装置を使う期間が続きます。使う装置の種類、装着する時間、どのくらいの期間続けるのかについては、以下の記事にまとめています。
案内される「治療期間」には含まれない
繰り返しになりますが、この区間は「治療期間◯年」という数字には入っていません。全体の見通しを立てるときは、②と④を分けて考える必要があります。
より長い時間軸での歯並びの変化については、以下の記事で扱っています。
期限があるときに押さえておくこと
期限がある場合は、先に伝えておく
結婚式、就職活動、転居の予定など、期限がある場合は方針を決める前の段階で伝えておくほうが反映されやすくなります。範囲や進め方の選択に関わるためです。
間に合うかどうかが分かるのは計画が立ったあと
ただし、具体的に間に合うかどうかは、距離が確定してからでなければ判断できません。相談の段階で言えるのは、おおよその範囲までです。
見た目の変化と、治療の完了は別
もうひとつ知っておくとよいのは、治療が完了する前から見え方は変わっていくという点です。すべてが終わるまで何も変わらないわけではありません。
ただし、どの時期にどのくらい変わるかは動かす内容によります。予定に合わせるための材料としては、計画上の見通しを使うことになります。
延長の可能性も織り込んでおく
期限がある場合ほど、延長が起きたときの余裕を持っておくことが現実的です。ぎりぎりの計画にすると、少しのずれで予定に影響します。
距離と期間の見通しを先に出す
期間を知るには、自分がどのくらいの距離を動かすことになるのかを測るところから始まります。
当院では口腔内をスキャンして状態を確認し、歯を動かした場合の歯並びを3Dのシミュレーションで見ていただけます。治療計画の段階で、動かす範囲と期間の見通しを確認できます。診察料・検査料は無料です。
ただし、動かす距離が大きい場合、範囲を限定した治療では対応できないことがあります。その場合は、動かす範囲を広げた治療を扱う医療機関での相談が必要になります。
自由診療に関する注記
マウスピース型矯正装置による歯列矯正は自由診療(保険適用外)です。マウスピース矯正 Oh my teeth の標準的な費用はLiteプラン 150,000円(税込・平均約2ヶ月)、Basicプラン 330,000円(税込・平均約3ヶ月)、Proプラン 660,000円(税込・平均約6ヶ月)です。記載の期間は歯を動かす矯正期間であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。主なリスク・副作用として、歯の痛みや違和感、歯根吸収、歯ぐきの退縮に伴うブラックトライアングル(歯と歯の間の隙間)などが生じる場合があります。IPRを行う場合はエナメル質を削るため、知覚過敏が生じることがあります。重度の歯周病や顎関節症のある方、骨格性の不正咬合が強い方などは治療をお受けいただけない場合があります。なおLiteプランには安心保証制度・ワイヤー補償は付帯しません(Basic・Proプランのみ)。
よくある質問
Q. 矯正の期間には保定期間も含まれますか。
A. 含まれないことが一般的です。案内される「治療期間」は、歯を動かしている区間を指しています。保定は動かし終えたあとに続く別の期間です。全体の見通しを立てるときは、分けて確認してください。
Q. マウスピース矯正のほうが早く終わりますか。
A. 装置の種類では決まりません。歯が動く速度には体の側の上限があり、装置を変えてもこの上限は変わりません。期間を決めているのは動かす距離です。範囲を限定した治療が短く済むのは、装置の違いではなく距離が短いためです。
Q. 途中でやめたらどうなりますか。
A. 動かしている途中の歯は、まだ安定した位置にありません。中断すると、その状態のまま戻る方向に動くことがあります。中断を考える段階になったときの受け止め方については、インビザラインをやらなきゃよかった?後悔しやすい時期とその理由を解説で扱っています。
Q. 前歯だけなら短く済みますか。
A. 動かす距離が短くなるぶん、期間は短くなります。ただし前歯だけで対応できるかどうかは、歯並びの状態によって決まります。噛み合わせを扱う必要がある場合や、歯を並べる場所が足りない場合は、範囲を限定できないことがあります。
まとめ
矯正の期間について、整理すると次のようになります。
- 「期間」は4区間に分かれる — ①相談から開始まで ②歯を動かす期間 ③延長 ④保定。案内される「治療期間」は②だけ
- 歯が動く速度には上限がある — 1ヶ月あたり0.5〜1mm程度。骨を溶かして作り直す速度が律速で、装置を変えても変わらない
- 無理に速めれば歯根吸収などのリスクがある
- 期間は距離で決まる — 同じ装置でも人によって違うのは、距離に幅があるため
- 短くする方法は距離を短くすること — ただし範囲を限定できるかは状態による
- 「装着時間を守る」などは「延ばさない方法」であって、計画より早く終わらせる手段ではない
数字を比べるときは、それがどの区間を指しているのかを先に確認する。そして自分の期間を知るには、動かす距離を測るところから始まります。

