前歯を中心に動かす部分矯正のマウスピース矯正を調べていると、「八重歯は対象になるのか」という点で判断が止まりやすくなります。犬歯が前歯に含まれるのかどうかが、そもそも分かりにくいためです。
先に結論を書くと、犬歯は部分矯正の対象範囲に含まれます。ただし、範囲に入っていることと、対応できることは別です。
八重歯は、歯を並べる場所が足りなかった結果として外側に押し出された状態です。列の中に入れるには、その分の場所を新しく作る必要があります。そして前歯だけを動かす治療では、場所を作るために使える手段が限られます。
この記事では、何によって可否が決まるのかを構造から整理します。
八重歯は「場所が足りなかった結果」
犬歯が歯列の外側に押し出された状態
八重歯と呼ばれているのは、犬歯が歯並びの列から外れて、外側に出ている状態です。上顎の犬歯で起きることが多く、笑ったときに目立ちやすい位置にあります。
犬歯は生えかわりが遅い
ここに理由があります。乳歯から永久歯への生えかわりには順序があり、犬歯は前歯のなかでも遅い時期に生えてきます。
そのため、犬歯が生えてくる頃には、すでに他の歯で歯列が埋まっているという状況が起こりえます。
残った場所に収まりきらないと、外側へ出る
歯が並ぶための長さが足りていない状態で最後の歯が生えてくると、列の中に入る余地がありません。結果として、列から外れた位置に生えることになります。
犬歯そのものに問題があるわけではなく、最後に生えてくるために、場所の不足の影響を最も受けやすいということです。
つまり「八重歯」という独立した症状があるわけではない
ここが整理の出発点になります。八重歯は、歯を並べる場所が足りていないことの現れ方の一つです。
同じ場所不足でも、現れ方が前歯の重なりになることもあれば、犬歯が外に出る形になることもあります。表に出ている形が違うだけで、下にある問題は共通しています。
犬歯は部分矯正の対象範囲に含まれる
対象となるのは前歯から犬歯までの12本
前歯を中心に動かす部分矯正では、一般に前歯から犬歯までの上下左右あわせて12本が治療の対象になります。中切歯、側切歯、そして犬歯です。
つまり、八重歯になっている犬歯は、範囲としては含まれています。
プランによって対象の本数が変わる
対象とする本数はプランによって異なります。具体的なプランの内容と費用は、この記事の後半にある自由診療の注記に記載しています。
ただし「範囲に入っている」は「動かせる」という意味ではない
ここが本記事でいちばん重要な区別です。
対象範囲に含まれるというのは、その歯を動かす対象として扱えるという意味であって、動かした先に収まる場所があるという意味ではありません。
部分矯正で対応できない例については、以下の記事でも扱っています。
列に入れるには、その分の場所が要る
外に出ている歯を内側に入れると、列が窮屈になる
外側に出ている犬歯を歯列の中に移動させると、その歯の幅の分だけ、列に必要な長さが増えます。
もともと場所が足りずに外へ出ていたわけですから、そのまま入れようとすれば入りません。
場所を作らずに押し込めば、他の歯が押し出される
歯が並ぶための長さの総量は、放っておいて増えるものではありません。犬歯を内側に入れた分、どこかにしわ寄せが行きます。
前歯が前方へ押し出される、あるいは別の歯が重なる。場所を作らないまま並べ直すと、問題の場所が移動するだけになります。
だから「動かす」前に「場所を作る」工程がある
矯正治療で八重歯を扱うとき、犬歯を動かすことと同じか、それ以上に重要なのが必要な場所をどう用意するかです。
治療計画は、この場所の問題をどう解決するかを含めて組み立てられます。
必要な量は、飛び出し具合とは一致しない
外に大きく出ているほど不足量も大きい、という関係にはなっていません。歯の大きさ、顎の大きさ、他の歯の並び方によって、必要な量は変わります。
見た目の印象から自分で見当をつけることは難しく、測ってはじめて分かる部分です。どのくらい足りないかをどう評価するかについては、以下の記事で扱っています。
部分矯正では、場所を作る手段が限られる
ここが可否を分ける部分です。場所を作る方法にはいくつかありますが、前歯だけを動かす治療では使えないものがあります。
| 場所を作る手段 | 前歯のみを動かす治療で使えるか |
|---|---|
| 歯と歯の間をわずかに削る | 使える |
| 前歯部の歯列をわずかに広げる | 使える |
| 奥歯を後方へ動かす | 使えない |
| 小臼歯を抜く | 使えない |
使える手段① 歯と歯の間をわずかに削る
歯と歯が接している面をごくわずかに削ることで、列に必要な長さを詰める方法です。1か所あたりの量は小さいものの、複数か所で行うことで一定の場所を作れます。
この処置の内容や削る量については、以下の記事で扱っています。
使える手段② 前歯部の歯列をわずかに広げる
歯列の幅をわずかに外側へ広げることで、並ぶための長さを増やす方法です。ただし広げられる量には限りがあり、歯を支えている骨や歯ぐきの状態によって制約を受けます。
使えない手段① 奥歯を後ろへ下げてスペースを作る方法
全体を動かす治療では、奥歯を後方へ移動させて前方に場所を作る方法が取られることがあります。
しかし前歯だけを動かす治療では、奥歯が動かす範囲に入っていません。そのため、この手段は使えません。
使えない手段② 小臼歯を抜いてスペースを作る方法
犬歯のすぐ後ろにある小臼歯を抜いて場所を作る方法もあります。ただし抜いてできた隙間を閉じるには、奥歯側の歯を前方へ動かす必要があります。
奥歯を動かさない治療では、抜いた隙間を適切に閉じることができません。抜歯という手段は、動かす範囲とセットになっています。
だから可否は「必要な量が、使える2つで作れる範囲に収まるか」で決まる
以上をまとめると、判断は次の形になります。
必要な場所の量が、歯と歯の間を削る方法と歯列をわずかに広げる方法で作れる範囲に収まるなら、前歯だけを動かす治療で対応できる可能性があります。超えていれば、動かす範囲を広げる方向で考えることになります。
そしてその量は、検査で測らなければ分かりません。当院では診察料・検査料が無料です。
対応が難しい場合に取れる道
必要な量が大きかった場合でも、選択肢がなくなるわけではありません。
全体を動かす治療になる
奥歯を含めて動かす治療であれば、奥歯を後方へ動かす手段が使えるようになります。場所を作る方法が増えるため、対応できる範囲も広がります。
期間と費用は変わりますが、必要な量に対して手段が足りている状態で進められます。
抜歯を含む方針になることもある
不足している量がさらに大きい場合、小臼歯の抜歯を含む方針が検討されます。抜歯を選んだ場合に何が起きるかについては、以下の記事で扱っています。
無理に前歯だけで進めると、他の歯に影響が出ることがある
一方で注意しておきたいのは、必要な量が足りていない状態で前歯だけを並べ直すと、しわ寄せが別の場所に出るということです。
前歯が前方へ傾く、噛み合わせのバランスが変わるといった形で影響が現れることがあります。「範囲内で収める」ことを優先しすぎると、結果として別の問題が生じます。
どの道を取るかは、量が分かってから決まる
装置や治療範囲を先に決めてから量を測るのではなく、量が分かってから方針と範囲が決まります。この順序については、以下の記事で整理しています。
並んだあとに変わること、変わらないこと
前歯だけを動かす治療で対応できた場合でも、変わる範囲は限られています。ここも先に把握しておくと、結果とのずれが小さくなります。
変わるのは、対象範囲の見え方
動かす対象は前歯から犬歯までです。外に出ていた犬歯が列に収まれば、笑ったときの見え方は変わります。多くの方が気にしているのはこの部分にあたります。
奥歯の噛み合わせは対象に入っていない
一方で、上下の奥歯がどう噛み合っているかは、動かす範囲に含まれていません。噛み合わせ全体を成り立たせているのは奥歯の位置関係であり、前歯を並べ直しても、そこは変わらないままです。
もともと奥歯の噛み合わせに問題がある場合、前歯だけを整えても、その問題は残ります。
前歯が前方へ傾く形で収まることがある
もうひとつ知っておきたいのが、場所を作る量が足りないまま並べると、前歯が前方へ傾いた位置で収まることがあるという点です。列としては整って見えても、口元の出方が変わることがあります。
これは「並んだかどうか」だけを見ていると気づきにくい部分で、治療計画の段階で前歯が最終的にどこへ置かれるのかを確認しておく意味があります。
希望ではなく、状態から絞られる
以上のことから、前歯だけで対応するかどうかは、希望ではなく状態から決まります。必要な量と、奥歯の噛み合わせの状態。この2つが分かってはじめて、範囲が適切かどうかを判断できます。
費用と期間について
装置と範囲によって変わる
八重歯の治療にかかる費用と期間は、どの装置を使い、どこまでの範囲を動かすかによって変わります。装置ごとの目安については、以下の記事にまとめています。
プラン別の費用は自由診療の注記に記載
当院で扱っているマウスピース矯正のプランと費用については、この下の自由診療に関する注記をご確認ください。なお記載の期間は歯を動かす期間であり、保定期間は別に必要です。
必要な量を測ってもらうには
八重歯が前歯だけを動かす治療で対応できるかどうかは、必要な場所の量が分からないかぎり判断できません。そしてその量は、外から見て測れるものではありません。
当院では口腔内をスキャンして状態を確認し、歯を動かした場合の歯並びを3Dのシミュレーションで見ていただけます。これは歯並びのシミュレーションです。診察料・検査料は無料です。
なお、必要な量が大きい場合、前歯だけを動かす治療では対応できないことがあります。その場合は、動かす範囲を広げた治療を扱う医療機関での相談が必要になります。
自由診療に関する注記
マウスピース型矯正装置による歯列矯正は自由診療(保険適用外)です。マウスピース矯正 Oh my teeth の標準的な費用はLiteプラン 150,000円(税込・平均約2ヶ月)、Basicプラン 330,000円(税込・平均約3ヶ月)、Proプラン 660,000円(税込・平均約6ヶ月)です。記載の期間は歯を動かす矯正期間であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。主なリスク・副作用として、歯の痛みや違和感、歯根吸収、歯ぐきの退縮に伴うブラックトライアングル(歯と歯の間の隙間)などが生じる場合があります。IPRを行う場合はエナメル質を削るため、知覚過敏が生じることがあります。重度の歯周病や顎関節症のある方、骨格性の不正咬合が強い方などは治療をお受けいただけない場合があります。なおLiteプランには安心保証制度・ワイヤー補償は付帯しません(Basic・Proプランのみ)。
よくある質問
Q. 八重歯が1本だけでも対象になりますか。
A. 本数で決まるものではありません。1本であっても、その歯を列に入れるために必要な場所の量が大きければ、前歯だけを動かす治療では対応が難しくなります。逆に左右2本でも、必要な量が小さければ収まることがあります。判断の基準は本数ではなく量です。
Q. 抜かずに並べられますか。
A. 必要な場所の量によります。歯と歯の間を削る方法や歯列をわずかに広げる方法で足りる範囲であれば、抜かずに進められる可能性があります。足りない場合は、動かす範囲を広げるか、抜歯を含む方針が検討されます。どちらになるかは検査を経て判断される部分です。
Q. 飛び出し方が大きいと難しいですか。
A. 外から見た飛び出し具合と、必要な場所の量は一致しません。歯の大きさや顎の大きさ、他の歯の並び方によって変わるためです。大きく出て見えても必要な量が小さいことがあり、その逆もあります。見た目からの自己判断は難しい部分です。
Q. 治療後に戻ることはありますか。
A. 動かした歯は元の位置へ戻ろうとする性質があるため、動かし終えたあとに位置を保つ期間(保定)が必要になります。とくに場所が不足していた歯並びでは、保定を続けることが結果の維持に関わります。案内される治療期間には歯を動かす期間が示されており、保定期間は別に必要です。
まとめ
八重歯が前歯だけを動かす治療の対象になるかどうかは、次の構造で決まります。
- 八重歯は「歯を並べる場所が足りなかった結果」。犬歯は生えかわりが遅いため、場所不足の影響を最も受けやすい
- 犬歯は部分矯正の対象範囲(前歯から犬歯までの上下左右12本)に含まれる
- ただし「範囲に入っている」ことと「対応できる」ことは別。列に入れるには、その分の場所を作る必要がある
- 前歯だけを動かす治療で使える手段は2つ(歯と歯の間を削る/歯列をわずかに広げる)。奥歯の後方移動と小臼歯の抜歯は使えない
- 可否は、必要な量がその2つで作れる範囲に収まるかで決まる
- 必要な量は、外から見た飛び出し具合とは一致しない
つまり判断の順序は、装置やプランを選ぶことではなく、必要な場所の量を測ることから始まります。量が分かってはじめて、どの範囲で対応できるかが見えてきます。

