前歯が前に出ているのが気になっていても、ワイヤーの装置を着けてまで治すのは違う、と感じる方は少なくありません。人前で話す仕事なら、なおさら踏み切りにくいものです。
透明なマウスピースで進められるなら考えたい。そう思って調べ始めると、多くの記事に「軽度なら可能」と書かれています。ただ、自分が軽度に当てはまるのかは判断がつきません。
出っ歯には原因の違う2つのタイプがあり、それによってマウスピース矯正で対応できるかが変わります。見た目が似ていても中身が違うためです。まずはその区別から整理していきます。
出っ歯には2つのタイプがある
出っ歯は正式には上顎前突と呼ばれます。原因によって大きく2つに分かれ、ここが治療方法を決める分岐点になります。
| タイプ | 主な原因 | マウスピース矯正の適応 |
|---|---|---|
| 歯性の出っ歯 | 前歯の傾きや位置 | 軽度〜中度であれば選択肢になる |
| 骨格性の出っ歯 | 顎の骨の位置や大きさ | 矯正だけでは対応に限界がある場合がある |
歯性の出っ歯
前歯そのものが前方に傾いていることで、突き出て見える状態です。顎の骨格には大きな問題がなく、歯の傾きが主な原因になっています。
指しゃぶりや舌で前歯を押す癖、口呼吸などが影響しているケースがあります。歯を動かして傾きを整えれば改善が期待できるため、マウスピース矯正の対象になりやすいタイプです。
骨格性の出っ歯
上顎そのものが前方に出ている、あるいは下顎が後ろに下がっていることで、結果として前歯が突き出て見える状態です。
遺伝的な要因が関わることが多く、歯の傾きを整えるだけでは根本的な改善が難しい場合があります。程度が大きい場合は、外科的な処置を含む治療が検討されることもあります。
両方が混ざっているケースもある
実際には、どちらか一方に明確に分かれるとは限りません。骨格に軽度のずれがあり、そこに歯の傾きが加わっているという複合的なケースもよく見られます。
この場合、骨格のずれがどの程度かによって選べる方法が変わります。混ざっているからマウスピース矯正ができない、という単純な話ではありません。
自分がどちらに近いかを見るポイント
確定させるには検査が必要ですが、あたりをつける観点はあります。鏡や写真で確認できるものを挙げます。
横顔での上下の唇の位置関係
正面からでは判断しづらいため、横顔で見るほうが分かりやすくなります。
鼻の先と顎の先を結んだ線を思い浮かべたとき、上唇と下唇がその線に対してどの位置にあるか。上唇だけが大きく前に出ている場合は歯の傾きの影響が、上下の唇がともに前に出ている場合は骨格の影響が関わっている可能性があります。
口を閉じたときに力が入るか
自然に口を閉じられず、閉じようとすると顎の先にしわが寄ったり、力を入れる必要があったりする状態を口唇閉鎖不全といいます。
これは前歯の突出が大きいときに現れやすい状態です。ただし歯性でも骨格性でも起こり得るため、これだけでタイプは決まりません。
下顎が後ろに下がって見えるか
横顔で、顎の先が後方に引っ込んで見える場合、下顎の位置が関係している可能性があります。上顎が出ているのではなく、下顎が下がっていることで相対的に出っ歯に見えているケースです。
この場合は骨格的な要素が関わることが多くなります。
これはあたりをつけるためのもの
ここまでの観点は、可能性を考えるためのものです。確定させるには、レントゲンで顎の骨と歯根の位置関係を確認する必要があります。
外から見える部分だけでは、歯の傾きなのか骨格なのかを区別できません。同じように見える出っ歯でも、レントゲンを撮ると原因がまったく違うことがあります。
写真を使った自己確認の方法は歯並びの写真診断とは?撮り方と自分でできるタイプ判定を解説にまとめています。
マウスピース矯正で対応できる範囲
適応になりやすいのは、歯性で程度が軽度から中度のケースです。
前歯の傾きを整える動き
マウスピース矯正では、前歯を後方に傾けて位置を整える動きを得意とします。傾斜が主な原因の出っ歯であれば、この動きで改善が期待できます。
段階的に交換していくマウスピースが少しずつ力をかけ、計画された位置まで歯を移動させていく仕組みです。
装置が目立ちにくい
マウスピースは透明な素材でできており、装着していても近くで見なければ気づかれにくいという特徴があります。
人前で話す機会が多い方や、接客業で顔を見られる場面が多い方にとって、この点は現実的な違いになります。ワイヤー矯正では装置が見えるため、この理由で治療をためらってきた方には選択肢が広がります。
取り外せることの意味
食事のときに外せるため、食べ物が装置に絡まる煩わしさがありません。歯みがきも普段どおり行えるため、矯正中の虫歯リスクを抑えやすくなります。
マウスピース矯正だけでは難しいケース
一方で、対応が難しいケースもあります。事前に知っておくと、診断結果を受け止めやすくなります。
骨格性で程度が大きい場合
顎の骨の位置そのものにずれがある場合、歯を動かすだけでは限界があります。歯の傾きを変えても、土台となる骨格は変わらないためです。
歯を大きく動かす必要がある場合
前歯を後方に大きく下げる必要がある症例では、移動距離が大きくなります。マウスピース矯正が得意とするのは比較的小さな動きの積み重ねであり、大きな移動を伴う場合はワイヤー矯正のほうが適していることがあります。
スペースが確保できない場合
前歯を後ろに下げるには、下がる先にスペースが必要です。歯が並ぶ余地がまったくない状態では、まずスペースを作る処置が要ります。
適応外となる症例の全体像はマウスピース矯正ができない6つの症例!対処法や治療方法もご紹介で扱っています。
難しいと言われた場合の選択肢
ここが大切な点ですが、マウスピース矯正が難しいという結果は、治せないという意味ではありません。
ワイヤー矯正であれば対応できる範囲は広がります。装置が目立つことが気になる場合は、歯の裏側に装着する方法もあります。マウスピースとワイヤーを組み合わせ、大きく動かす段階だけワイヤーを使うという進め方もあります。
骨格性で程度が大きい場合は外科的な処置が検討されますが、これも選択肢のひとつです。また、噛み合わせの改善までは求めず、見た目の範囲で部分的に整えるという方針が取れることもあります。
どの結果になっても、次に選べる方法があります。
前歯を下げるスペースをどう作るか
出っ歯の治療では、前歯を後ろに下げる場所を確保する必要があります。ここで抜歯を心配される方が多いのですが、方法は一つではありません。
なぜスペースが必要なのか
歯は骨の中に並んでおり、動かせる範囲には限りがあります。前歯を後方に移動させるには、その分の空間が歯列の中に必要です。
現状で歯がぎっしり並んでいる場合、そのままでは前歯を下げる余地がありません。そこでスペースを作る処置が検討されます。
奥歯の後方移動
奥歯を後ろへ動かし、その分だけ前方に空間を作る方法です。ディスタライゼーションと呼ばれます。
親知らずの有無や顎の骨の状態によって、動かせる距離が変わります。大きなスペースは作れませんが、健康な歯を抜かずに済む方法です。
IPR
歯と歯が接している側面のエナメル質を、ごくわずかに削ってスペースを作る方法です。IPRと呼ばれます。
削る量は1ヶ所1回あたり最大0.5mm程度とされ、エナメル質の厚みの範囲内で行われます。複数箇所に分けて行うことで、まとまったスペースを確保できます。
健康な歯を削ることに抵抗を感じる方もいます。エナメル質を削る処置である以上、担当医から目的と削る量、想定されるリスクについて説明を受けたうえで判断してください。
抜歯
必要なスペースが大きい場合、小臼歯を抜いて空間を作る方法が検討されます。
まとまったスペースを確保できる一方、健康な歯を失うことになります。また前歯を大きく後方へ移動させるため、口元の変化も大きくなります。抜歯を伴う矯正で口元がどう変わるかは抜歯矯正で口元が引っ込みすぎるのは起こる?で扱っています。
どれを選ぶかは必要なスペース量で決まる
重要なのは、抜歯が最初から決まっているわけではないという点です。
必要なスペースが小さければ、IPRや奥歯の後方移動で足りることがあります。必要量が大きい場合に抜歯が候補になります。どれだけのスペースが要るかは、歯の位置と移動させたい距離から計算されます。
つまりこれは診断の結果として決まるものです。抜歯を避けたい希望があるなら、その旨を伝えたうえで方法を相談できます。
自分の出っ歯がどのタイプで、どの方法でスペースを作ることになるのか。ここは検査を受けてはじめて分かります。診察料・検査料が無料のクリニックであれば、費用をかけずに確認できます。
治療期間の目安
期間は症例によって幅があります。目安として整理します。
歯の傾きのみが原因の場合
骨格に問題がなく、前歯の傾きを整えるだけで済む場合、6ヶ月から1年半程度が目安とされています。
動かす距離が小さいため、必要なマウスピースの枚数も少なくなります。
突出が強く移動距離が大きい場合
前方への突出が大きい場合、1年半から2年半程度かかることが一般的です。
なぜ幅が生まれるのか
期間の差は、歯を動かす距離によって生まれます。
マウスピース矯正では、1枚のマウスピースで動かせる量が決まっています。その積み重ねで目標位置まで移動させるため、距離が長いほど枚数が増え、期間も伸びます。
前歯を2mm下げるのと5mm下げるのでは、必要な枚数が大きく違います。同じ「出っ歯」でも期間の見積もりが変わるのはこのためです。
保定期間は別に必要
上記の期間は、歯を動かす矯正期間のみを指します。治療後は動いた歯が元に戻らないよう、保定装置を使う期間が続きます。
保定期間は矯正期間と同程度が目安とされています。詳しくは矯正後に使うリテーナーとは?期間や装着時間を解説をご覧ください。
装着時間と生活の両立
マウスピース矯正では、1日20〜22時間の装着が前提になります。食事と歯みがきの時間以外はほぼ着けたままです。
出っ歯の改善では装着時間の影響が大きい
装着時間を守れないと歯が計画どおりに動かないのは、どの症例でも共通です。ただし出っ歯の治療では、この影響がより出やすくなります。
前歯を後方へ下げる動きは移動距離が大きく、その分だけ積み重ねが必要になるためです。装着が不十分な日が続くと、予定していた位置まで届かず、マウスピースが合わなくなります。合わないまま次に進めないため、作り直しや期間の延長につながります。
接客中も装着したまま過ごせる
透明な素材のため、会話をしていても気づかれにくい設計です。接客や商談の場でも外す必要はありません。
むしろ外している時間が長くなるほうが問題になるため、着けたまま過ごせることが利点になります。
外す時間の管理
外すのは食事と歯みがきのときです。間食が多い方は、その都度着け外しが発生します。
飲み物についても、水以外を飲むときは外すのが原則です。装着したまま糖分を含む飲料を飲むと、マウスピースの内側に留まって虫歯のリスクが上がります。
費用の考え方
費用は治療範囲と、必要になる処置によって変わります。
治療範囲による違い
前歯を中心とした部分的な治療と、奥歯まで含めた全体の治療では、動かす歯の本数が違うため費用が変わります。
出っ歯の場合、前歯の傾きだけを整えれば済むのか、噛み合わせ全体の調整が要るのかによって範囲が決まります。
抜歯やIPRが加わる場合
抜歯が必要になれば、その処置の費用が別途かかります。IPRについては矯正費用に含まれる場合と別途の場合があり、医院によって扱いが異なります。
見積もりを取る際は、これらが総額に含まれるかを確認してください。
総額が確定する料金体系かどうか
矯正の料金体系には、装置代を基本料金として通院ごとに調整料が加算されるものと、治療完了までの総額が契約時に確定するものがあります。
マウスピース矯正 Oh my teeth の場合、標準的な費用はLiteプラン 150,000円(税込)、Basicプラン 330,000円(税込)です。診察料・検査料はかからず、通院は最低1回※から進められます。
※通院回数は治療内容・個人の状態により異なります
部分矯正という枠組みで出っ歯の治療を比較したい場合は、部分矯正で出っ歯を治す方法と費用を解説もあわせてご覧ください。ワイヤー矯正を含む装置ごとの違いを扱っています。
自由診療に関する注記
マウスピース型矯正装置による歯列矯正は自由診療(保険適用外)です。マウスピース矯正 Oh my teeth の標準的な費用はLiteプラン 150,000円(税込・平均約2ヶ月)、Basicプラン 330,000円(税込・平均約3ヶ月)、Proプラン 660,000円(税込・平均約6ヶ月)です。記載の期間は歯を動かす矯正期間であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。主なリスク・副作用として、歯の痛みや違和感、歯根吸収、歯ぐきの退縮に伴うブラックトライアングル(歯と歯の間の隙間)などが生じる場合があります。IPRを行う場合はエナメル質を削るため、知覚過敏が生じることがあります。重度の歯周病や顎関節症のある方、骨格性の不正咬合が強い方などは治療をお受けいただけない場合があります。なおLiteプランには安心保証制度・ワイヤー補償は付帯しません(Basic・Proプランのみ)。
矯正による横顔の変化については矯正で横顔やEラインは変化する?変わりやすい症例を紹介で扱っています。
よくある質問
Q. 自分が歯性か骨格性か、行く前に分かりますか?
横顔での唇の位置関係や、下顎が後ろに下がって見えるかどうかで、ある程度の見当はつきます。ただし確定にはレントゲンが必要です。歯根の位置や顎の骨の関係は外から見えないためです。あたりをつけたうえで診断を受けると、説明も理解しやすくなります。
Q. 抜歯をしないと治せませんか?
必要なスペースの量によります。小さければIPRや奥歯の後方移動で足りることがあり、その場合は抜歯を伴いません。大きなスペースが要る症例で抜歯が候補になります。抜歯を避けたい希望がある場合は、診断の段階で伝えて方法を相談してください。
Q. 治療中に見た目の変化はいつ頃から出ますか?
個人差がありますが、前歯を動かす治療では比較的早い段階で変化を感じる方もいます。ただし計画上の最終位置に達するまでは治療途中の状態です。途中で止めると噛み合わせが不安定なままになるため、完了まで続けることが前提になります。
Q. 骨格性と言われたら諦めるしかないですか?
そうとは限りません。骨格性であっても程度によります。軽度であればワイヤー矯正で対応できることがありますし、マウスピースとワイヤーを組み合わせる方法もあります。程度が大きい場合は外科的な処置を含む治療が選択肢になります。また噛み合わせの完全な改善までは求めず、見た目の範囲で整える方針を取れる場合もあります。診断を受けたうえで、何ができるかを聞いてみてください。
まとめ
出っ歯には、前歯の傾きが原因の歯性と、顎の骨の位置が原因の骨格性があります。マウスピース矯正の対象になりやすいのは、歯性で程度が軽度から中度のケースです。
自分がどちらに近いかは、横顔での唇の位置関係や下顎の位置からある程度の見当がつきます。ただし見た目が似ていても原因が違うことがあり、確定にはレントゲンによる検査が必要です。
前歯を下げるスペースは、抜歯だけでなくIPRや奥歯の後方移動でも作れます。必要な量によって方法が決まるため、抜歯が最初から確定しているわけではありません。
そして骨格性と診断された場合でも、ワイヤー矯正や併用、外科的処置といった選択肢があります。どの結果でも次の一歩はあるので、まずは自分のタイプを確かめるところから始めてみてください。

