歯科矯正について調べると、装置の種類、費用の相場、治療期間の目安といった情報が出てきます。ひととおり読んでも、自分の場合がどれに当たるのかは分からないままということが少なくありません。
これは情報が足りないからではありません。治療の内容は、順序があって決まっていくものだからです。診断があり、そこから治療方針が決まり、方針に合う装置が絞られ、最後に費用と期間が確定します。
多くの場合、調べる順序はこれと逆になっています。装置を選び、費用を見て、医院を探す。この向きだと決まらないのは当然で、後ろの段階は前の段階の結果として出てくるためです。
この記事では、何がどの段階で決まるのかを整理します。
歯科矯正で行っていること
歯に力をかけて、骨の中で位置を変える
歯は顎の骨に植わっていますが、固定されて動かないわけではありません。一定の力がかかり続けると、押される側の骨が溶かされ、引かれる側に新しい骨が作られるという反応が起こります。この繰り返しによって、歯は骨の中を少しずつ移動していきます。
歯科矯正は、この反応を意図した方向に起こす治療です。装置の種類が何であっても、行っていることはこれです。
時間がかかるのはこの仕組みによる
骨が作り替えられる速度には限りがあります。強い力をかければ早く動くというものではなく、無理な力は歯や周囲の組織への負担になります。
そのため、動かす量が大きいほど期間は長くなります。治療期間が「症例による」と書かれるのは、動かす距離と本数が人によって違うためです。
並べ終えたところで治療は終わらない
移動した歯は、そのままでは元の位置に戻ろうとします。そのため動かし終えたあとに、位置を保つための期間(保定)が続きます。
一般に案内される治療期間には、この保定期間が含まれていないことが多いため、全体の見通しを立てるときは分けて考える必要があります。
治療内容は4つの段階を経て決まる
治療の中身は、次の順序で決まっていきます。
| 段階 | 決まること | 何が決めるか |
|---|---|---|
| 1 診断 | 何が起きているか/原因が歯にあるのか骨格にあるのか | 検査 |
| 2 治療方針 | 動かす範囲/歯を並べる場所の作り方/抜歯の要否 | 診断の結果 |
| 3 装置 | どの装置なら方針を実現できるか | 治療方針 |
| 4 費用・期間 | 総額と見通し | 範囲と装置 |
調べる順序は、たいてい逆になっている
情報を集めるときは、装置の種類から入ることが多くなります。次に費用の相場を見て、通えそうな医院を探す。自然な流れですが、表の下から上に向かって調べていることになります。
逆順だと決まらない理由
装置は、方針が決まってはじめて絞られます。費用は、範囲と装置が決まってはじめて計算できます。後ろの段階は前の段階の結果なので、前が決まっていない状態でいくら後ろを調べても、答えは出てきません。
相場として示される金額に大きな幅があるのは、まだ何も決まっていない人に向けて書かれているからです。
順序を知っていると、次にやることが1つに決まる
逆に言えば、順序が分かれば迷う範囲は狭くなります。何も決まっていない段階でやることは、段階1に進むことです。装置を比較することでも、医院を絞り込むことでもありません。
段階1|診断 — 原因がどこにあるか
見えているのは結果
鏡で見えるのは、歯が重なっている、前に出ている、隙間がある、といった状態です。これは結果であって、原因ではありません。
同じように見える状態でも、原因が違えば取れる方針は変わります。
原因が歯の位置にあるのか、顎の骨にあるのか
前歯が出ている状態を例にすると、歯そのものが前に傾いている場合と、顎の骨の前後関係に由来する場合があります。両方が混ざっていることもあります。
前者であれば歯を動かすことで改善が見込めますが、後者は歯の移動だけでは限界があります。この違いは外から見て判断できるものではありません。
検査で見ているもの
診断では、歯の位置関係だけでなく、顎の骨の形と前後関係、そして歯を並べるための場所がどれだけあるかが測られます。レントゲンや歯型のデータが使われるのは、外から見えない部分を数値にするためです。
「たぶん軽いほう」という見立ては当てにならない
自分の歯並びについて、なんとなく軽いほう、あるいはひどいほうだと感じている方は多いと思います。ただし、判断に使われるのは見た目の印象ではなく測られた量です。
見た目の乱れが小さくても場所が大きく不足していることがあり、逆に目立って見えても不足量は小さいことがあります。軽いか重いかも、段階1で決まります。
相談前に自分で把握できることもある
すべてが検査待ちというわけではなく、自分の歯並びがどういうタイプに近いかは、ある程度まで自分で見ておけます。ただしこれはあたりをつけるためのものであり、診断に代わるものではありません。
段階2|治療方針 — どこまで動かし、場所をどう作るか
診断の結果から、治療方針が決まります。ここで決まるのは大きく2つ、動かす範囲と、歯を並べる場所をどう用意するかです。
動かす範囲を決める
奥歯を含めた全体を動かすのか、前歯を中心とした範囲にとどめるのか。これは希望だけで決まるものではなく、噛み合わせをどう扱う必要があるかによります。
場所が足りるかどうかは、量として測られる
歯が重なっているのは、並ぶために必要な長さに対して、使える長さが足りていない状態です。この不足がどのくらいあるかを数値で出し、その量によって取れる手段が変わります。
不足が小さければ場所を作らずに並べられることがあり、中程度なら歯の側面を削るなどの手段で対応でき、大きければ抜歯が検討されます。目安となる数値と、その考え方は以下の記事で扱っています。
場所を作る手段には上限がある
抜歯以外の手段として、歯と歯の間をわずかに削る、奥歯を後方へ動かす、歯列の幅を広げるといった方法があります。ただしそれぞれに作れる量の上限があり、組み合わせても必要量に届かないことがあります。
方針が抜歯に向かうのは、この上限を超えている場合です。
段階2には、判断が入る余地がある
段階1が測定であるのに対し、段階2には前歯を最終的にどの位置に置くかという判断が入ります。そのため、不足量が中程度の範囲では、説明を受ける医院によって示される方針が変わることがあります。違う方針が示されたとしても、どちらかが誤っているとは限りません。
この分かれ方と、選んだ結果として何が起きるかは、以下の記事で扱っています。
ここまでが決まらないと、装置の話に進めない
動かす範囲と、場所の作り方。この2つが決まってはじめて、「それを実現できる装置はどれか」という問いが立ちます。逆にここが未定のままでは、装置を比較しても比較になりません。
段階3|装置 — 選ぶというより、絞られる
方針が決まると、実現できる装置は限られる
装置には、それぞれ得意な動きと苦手な動きがあります。歯を大きく移動させる、歯を引っ張り出す、傾きを細かく調整する。必要な動きの内訳によって、対応できる装置は絞られます。
「どの装置にするか」は、選択肢が横に並んでいて自由に選べる、という形ではありません。方針を実現できるものが残るという決まり方をします。
希望は出発点にしてよい
とはいえ、目立たせたくない、取り外せるほうがいい、といった希望を持つことは自然なことです。希望は伝えてよいものですし、実際に判断材料になります。
ただし整理しておきたいのは、希望は「条件」であって「方針」ではないという点です。
希望どおりの装置では対応できないとき
希望する装置では、必要な動きに対応できないことがあります。このとき取れる道は2つで、装置を変えるか、方針のほうを変えるかです。
たとえば、動かす範囲を狭めれば対応できる装置は増えますが、そのぶん改善する範囲も変わります。どちらを取るかは、相談のなかで決める話であり、記事で決められるものではありません。
装置ごとの詳細はここでは扱わない
それぞれの装置の仕組みや特徴については、以下の記事にまとめています。
同じ装置でも、計画は同じにならない
もうひとつ知っておくとよいのは、装置を決めることと、治療計画が決まることは別だという点です。どの歯をどの順序でどれだけ動かすかを組み立てるのは歯科医師であり、同じ装置を使っていても計画の中身は変わります。
自分の歯並びが今どういう状態にあるのかは、検査を受けることで分かります。当院では診察料・検査料が無料のため、段階1に費用をかけずに進むことができます。
段階4|費用と期間 — 最後に確定する
相場に幅があるのは、範囲と装置が決まっていないから
矯正の費用として示される金額に大きな幅があるのは、治療範囲と装置によって内容がまったく変わるためです。全体を動かす場合と前歯だけの場合では、必要な処置も期間も違います。
つまり幅があるのは説明が不足しているからではなく、その人の段階1と段階2がまだ決まっていないからです。
金額として出てくるのは順序の最後
具体的な金額は、検査を受けて治療計画が立った段階で確定します。順序の最後にあるため、それより前に確定させることはできません。
費用の内訳や相場の考え方については、以下の記事にまとめています。
期間も同じ構造
治療期間も、動かす量と装置によって変わります。そして動かす量は段階2で決まります。なお、一般に案内される期間には歯を動かす期間のみが含まれ、保定期間は別に必要です。
治療開始までに何をどの順で行うかについては、以下の記事で工程に沿って説明しています。
保険が使えるかどうかも、段階1で決まる
歯科矯正は原則として公的医療保険の対象外ですが、限られた場合に例外があります。その条件は歯並びがどれだけ乱れているかではなく、その乱れが何に起因しているかで決まります。つまりこれも診断の結果です。
初回の相談は、どこまでを扱う場か
何も分からない状態で相談に行くことに、ためらいを感じる方もいます。何が決まる場なのかを整理しておきます。
初回に扱えること
口の中の状態をおおまかに確認し、どういう問題がありそうか、どんな検査が必要になりそうかが分かります。費用についても、どういう項目が発生するのかという考え方は聞けます。
検査を経ていないと出せないもの
一方で、総額、治療期間、抜歯の要否は、この時点では確定しません。いずれも検査と診断を経て決まる項目だからです。
初回で「総額は◯◯円です」と言い切られた場合、それが何を前提にした数字なのかは確認しておくとよいでしょう。
検査を受けることと、契約することは別の行為
段階1に進むというのは、検査を受けて診断を聞くところまでを指します。そこから治療を始めるかどうかは、方針の説明を受けたあとの判断です。この2つが同時に決まるものだと考えていると、相談そのものが重く感じられます。
相談の場でどう伝え、どう受け止めるかについては、以下の記事で扱っています。医院を選ぶときの確認項目も同様です。
段階1に費用をかけずに入る
繰り返しになりますが、何も決まっていない段階でやることは、装置を比べることではなく、段階1に進むことです。
当院では口腔内をスキャンして状態を確認し、歯を動かした場合の歯並びを3Dのシミュレーションで見ていただけます。診察料・検査料は無料です。
ただし、噛み合わせの問題が骨格に由来していて程度が大きい場合、当院が扱うマウスピース矯正では対応できないことがあります。その場合は対応できる治療を扱う医療機関での相談が必要になります。
自由診療に関する注記
マウスピース型矯正装置による歯列矯正は自由診療(保険適用外)です。マウスピース矯正 Oh my teeth の標準的な費用はLiteプラン 150,000円(税込・平均約2ヶ月)、Basicプラン 330,000円(税込・平均約3ヶ月)、Proプラン 660,000円(税込・平均約6ヶ月)です。記載の期間は歯を動かす矯正期間であり、後戻りを防ぐ保定期間は含みません。主なリスク・副作用として、歯の痛みや違和感、歯根吸収、歯ぐきの退縮に伴うブラックトライアングル(歯と歯の間の隙間)などが生じる場合があります。IPRを行う場合はエナメル質を削るため、知覚過敏が生じることがあります。重度の歯周病や顎関節症のある方、骨格性の不正咬合が強い方などは治療をお受けいただけない場合があります。なおLiteプランには安心保証制度・ワイヤー補償は付帯しません(Basic・Proプランのみ)。
よくある質問
Q. 装置を先に決めてから相談に行ってもいいですか。
A. 希望として伝えるのは問題ありません。目立たせたくない、取り外したいといった条件は、判断の材料になります。ただし希望した装置で方針を実現できるかどうかは診断のあとに分かるため、「これでなければ受けない」と固定してしまうと選択肢が狭くなることがあります。
Q. 費用はどのくらい見ておけばいいですか。
A. 一般的な範囲は歯列矯正の費用はいくらかかる?相場や料金を紹介にまとめています。ただし自分の金額が確定するのは検査と治療計画のあとです。相場は予算感をつかむために使い、実際の判断は診断後の見積もりで行うことになります。
Q. 軽い歯並びなら短期間で終わりますか。
A. 軽いかどうかも診断で決まります。見た目の乱れが小さくても、歯を並べる場所の不足が大きいことがあります。期間は動かす量で決まるため、見た目の印象からは判断できません。
Q. 相談に行くと、その場で契約することになりますか。
A. 検査を受けることと契約することは別です。診断と方針の説明を受けたうえで判断できます。判断に迷う場合は、持ち帰って考えることも、別の医院で説明を聞くこともできます。
まとめ
歯科矯正の治療内容は、次の順序で決まっていきます。
- 段階1 診断 — 何が起きていて、原因が歯にあるのか骨格にあるのか。軽いか重いかもここで決まる
- 段階2 治療方針 — 動かす範囲と、歯を並べる場所の作り方。不足量によって取れる手段が変わる
- 段階3 装置 — 方針を実現できるものが残る。選ぶというより絞られる
- 段階4 費用・期間 — 範囲と装置が決まってはじめて確定する
調べても決まらないと感じるのは、情報が足りないからではなく、後ろの段階から順に見ているからです。装置の比較も費用の比較も、前の段階が決まっていなければ比較になりません。
何も決まっていない段階でやることは1つで、段階1に進むことです。そこから先は、決まったことに応じて選択肢のほうが絞られていきます。

